賃貸物件を借りると、家賃以外に多くの金銭的負担がかかる。その中でも、火災保険は保険料がやや高額なこともあり、借主が加入を渋る場合も少なくない。しかし、多くの人が生活するマンションやアパートだから、大家としてはもしものときに備えるために、借主に納得した上で火災保険に加入してもらいたいと考えている。借主が火災保険の加入を渋った際の対処法を考えてみたい。

借主が負担する費用とは

火災保険を説明する前に、借主が家賃以外に負担する費用について考えてみよう。

借主の負担する費用としては、賃貸契約を結ぶ際の敷金、礼金、仲介手数料があり、契約後には共益費、契約更新料、火災保険などがある。

賃貸契約を結ぶ際に借主が負担する費用であるが、敷金は賃貸契約を解除して物件を大家に引き渡すときに、原状回復の費用に充てられるものである。

もちろん経年劣化(時間の経過とともに損傷などすること)した箇所については、大家の責任で修繕を行うが、借主の故意または重大な過失によって損傷したような箇所の修繕には、この敷金が充てられる。通常、家賃の3~4ヵ月程度である。

礼金は賃貸契約を結んだ大家にお礼として支払うものである。通常、家賃の1ヵ月程度である。

仲介手数料は、借主と大家の間を仲介した不動産管理会社などの手数料である。これも、通常家賃の1ヵ月程度である。

次に契約後に借主が負担する費用であるが、共益費は建物の玄関、廊下、エレベーターなど、共用部分の維持費に充てられる。具体的には、これらの箇所の修理費や電気代として使われる場合が多い。

契約更新料は、賃貸契約の期間が満了になった際に、再度契約を更新するために支払うものである。賃貸契約書には、契約期間が明記されていて、この期間が終われば、賃貸契約も終了することになる。

契約書には、「契約更新をしないときは、契約満了の1ヵ月前までに借主から大家に通知すること」と記載されていることが多いので、借主は契約を更新しない場合には、大家にその旨を通知することになる。

一方、大家や不動産管理会社などからは、契約期間満了の2、3ヵ月前に契約更新の案内と更新料の振込用紙が送られてくる場合が多い。また、このときに同時に火災保険の案内も送られてくる。

火災保険とは 家財保険・借家人賠償責任保険・個人賠償責任保険

不動産賃貸契約では、多くの場合、火災保険に加入することが義務付けられている。一般的に、賃貸契約を結ぶ際、また賃貸契約を更新する際に、保険料1万円前後を支払うことになる。

ところで、一口に「火災保険」と言うがそこに大きく分けて3つの要素があることは、あまり知られていない。

一つ目は、「家財保険」である。社会生活で故意または過失により他人に損害を与えた場合には、加害者が与えた損害を被害者に対して賠償しなければならない。このことは、民法第709条に「不法行為による損害賠償」として規定されている。

しかしこれには例外がある。火災の場合、失火ノ責任ニ関スル法律という法律で、加害者に重大な過失があるときに限り、加害者が責任を取ることになっている。従って、重大とは言えない過失、不注意程度は、火事を起こして損害を与えたとしても、責任を問われないことになる。

そうなってくると、他人が不注意で起こした火災で損害を被った場合、補償されないことになる。そのため、自分の財産は自分で守るという意味から、家財保険に前もって加入しておく必要があるのだ。

ニつ目は「借家人賠償責任保険」である。賃貸契約が終了した段階で、借主は借りていた物件を原状回復させて、大家に引き渡さなければならない(原状回復義務)。

経年劣化や通常の使用によって生じる損傷などは、基本的に借主の責任は生じない。しかし、貸主の故意または過失によって生じた損傷などは、借主の金銭的負担で、原状回復しなければならない。

そのために、賃貸契約の際に敷金を支払っているのだが、仮に借主が火災を起こし、物件を焼いてしまったときには、敷金の範囲で原状回復するのは難しくなる

そのために、借家人賠償責任保険に加入しておいて、借主が火事を起こし物件を焼いてしまった場合に備えるのである。

三つ目は「個人賠償責任保険」である。これは、マンションやアパートなどの集合住宅で発生するトラブルに備えた保険である。

例えば、借主がうっかりして、お風呂のお湯を出しっ放しにしてしまい、下の階に住んでいる人に損害を与えたとする。この場合、上の階の借主が下の階の住人の損害を賠償することになる。このときに適用されるのが、個人賠償責任保険である。

この三つから構成される火災保険だから、借主の加入が基本的に義務付けられていると考えられる。