筆頭株主と企業の関係

【第1回】の吉野家HD、【第2回】のしまむら、【第3回】の住友不動産を取り上げてきた本連載。
【第4回】ではヤクルトに関する記事となる。株式を発行している企業にとって、筆頭株主の持ち株割合が変わることは大きな波乱要素である。2018年にヤクルトと筆頭株主ダノンの間で起こった一連の騒動は、株主と株価の関係を考えるときに着目すべき題材だ。この記事では、双方にどのような思惑、戦略があったのか考察していく。

ヤクルトレディの活躍

「ヤクルトおばさん」をご存知だろうか。筆者が幼い頃はヤクルトを販売する女性をそう呼んでいた。彼女たちの多くは個人事業主なのだが、筆者が住んでいた地域を担当する「ヤクルトおばさん」の販売力たるや相当なものだった。決して大げさな話ではなく、地域の誰もが朝一番でヤクルトを飲むのが当たり前だった。正式名称は「ヤクルトレディ」であるが、彼女たちひとり一人の活躍がヤクルト本社 <2267> の業績に大いに寄与しているのは言うまでもない。
 
注目されるのは、先週の株式市場でヤクルト本社(以下、ヤクルト)が大商いに沸き、売買代金ランキングでトヨタ自動車 <7203> を抜いて上位に躍り出たことだ。今回はその背景を詳しくみてみよう。

ヤクルトが人気爆発!売買代金でトヨタを抜く

2018年3月13日、ヤクルト株の出来高は879万株の大商いとなった。売買代金は671億円で、東証1部のランキングで任天堂 <7974> に次ぐ2位となった。筆者は株式市場に約30年携わっているが、これまでヤクルトの売買代金がトヨタや三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> を上回った記憶はない。
 
ちなみに、3月13日のヤクルトの株価は60円(0.8%)高、翌14日も100円(1.3%)高の7740円と続伸した。2月15日の年初来安値7220円からの上昇率は7%に達しており、商いを伴いながら着実に下値を切り上げている。
 
大商いの背景にはフランスの食品メーカー・ダノンの存在がある。長らくヤクルトの筆頭株主であったダノンが、2月に大量の売り出しを行いその影響からヤクルト株は先の年初来安値に急落した。売出株数は約2200万株(約2000億円)で、その受渡期日が3月13日だったのだ。いわゆる需給悪化懸念で株価は一時的に急落する場面も見られたが、それもほぼ一巡し底入れから水準切り上げに変化したものと考えられる。市場ではダノンの株式売却について「むしろダノンから解放された」と歓迎する向きもあり、安値でヤクルト株を買い仕込んだ投資家もいたようだ。

ダノンの恋の物語? ヤクルトに想い届かず?

先に述べた通り、ダノンはフランスの食品メーカーだ。「ダノン」や「プチダノン」といったヨーグルトを主力とする同社は、ヤクルトの発行済み株式の約21%を保有していた。
 
ダノンが日本市場に参入したのは1980年のこと。2000年になると乳酸菌技術で定評のあったヤクルト株を5%取得し、2003年にはさらなる関係強化を求め持株比率を20%まで高めた。恐らく、ダノンの狙いはM&Aでヤクルトを傘下に入れたかったのかもしれない。
 
2004年に両社は「戦略的業務提携」を行っている。とはいえ、ヤクルトはダノン株を持ち合いしたわけではないので、筆者にはダノンの一方的な「片想い」のように見えていた。ヤクルトは経営の自由性がなくなるとの考えから、ダノンと友好的にしながらも一定の距離を保ちたかったのだろう。結局、ダノンの想いは届かなかったようで、2013年に戦略的提携を解消している。