はじめに

外国人が訪問しやすい環境の整備は、外国企業の誘致にもつながる。2020年の東京オリンピックを契機に、日本を「ビジネスをしやすい」国に改革することで、持続的な成長が可能になる。外国人観光客のリピーター獲得に向けては、IR(カジノを含む統    合型リゾート)も有効な手段だ。

オリンピックの開催国は必ず景気の拡大や株価の上昇を経験しており、2020年の東京オリンピックも例外ではないだろう。

その経済効果は、東京都の試算によると約3兆円弱となっている。しかしその大半は競技場の建設や周辺施設の整備であり、開催に向けて行われる道路や鉄道などのインフラ整備は含まれていない。

幅広い分野でインフラ整備

先進国で開催された過去のオリンピックを見ると、開催までの7年間は、それ以前と比べてGDPを年平均約+0.3ポイント押し上げる効果がある。これを日本に当てはめると、累計で10.5兆円程度になる。

ただし、これはあくまで付加価値ベースの金額で、生産誘発額に換算すれば21兆円程度になると試算できる。中でもインフラ整備と観光客の増加は大きな経済効果が期待される。

例えば、環状道路の整備率を見ると過去の開催国のソウル、北京、ロンドンはともに100%だが、慢性的な渋滞を引き起こす東京の環状道路は大幅に遅れている。

オリンピック関連施設の建設や改修工事などに4000億円が見込まれているが、それ以外の周辺の再開発や道路網、鉄道、空港等といった交通インフラにも整備が必要である。また民間では、ホテルや商業施設の建設や改修、さらにオリンピック終了後の再開発にも設備投資が行われるだろう。
 

建設労働者の不足が深刻化

しかし、こうした再開発のハードルになるのが、建設労働者不足である。人件費を中心に建設コストの上昇が懸念され、特にオリンピックと関係のない地域では、建設・資材費の高騰を販売価格に転嫁できず、収益を圧迫する要因になりかねない。

今後も被災地の復興や地方の老朽インフラで建設需要が続くため、現在のような建設労働者不足の状況で、オリンピックに向けた東京の整備が十分に行えるのか疑問も湧いてくる。少子化で建設労働者を増やすのは構造的に困難だろう。そこで関心を呼びそうなのが、外国人労働者の受け入れである。 

しかし、外国人労働者の受け入れには不確実性がある。例えば、政府の骨太方針では地方における外国人材を強調しているものの、移民の受け入れは視野に入っていない。オリンピックを契機に移民受け入れに風穴が開く可能性もあろう。

最も注意しなければならないのは、開催後の経済の反動減だろう。2次利用できない施設は、負の遺産となることも考えられる。需要の先食いと実需の減少によって、開催後のGDPは0.4%押し下げられることが予測され、その対策が求められよう。

また、インフラ整備の名を借りて、無駄なものを作りすぎると財政の健全化にマイナスに働くことも考えられる。投資先は集中と選択で選ばなければならない。