インターネットを中心に新しい思想としてムーヴメントを巻き起こしている「加速主義」。海外の会社経営者や起業家、投資家など多くのビジネスパーソンも注目しています。とはいえ「加速主義」という言葉は聞いたことがあっても「どんな内容なのか詳しくは知らない」という人も多いはず。そこで今回の記事では、話題の加速主義について解説します。

リバタリアニズムをおさらい

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加速主義について知るためには、まず「リバタリアニズム」という用語を押さえておく必要があります。日本語で「自由至上主義」とも翻訳されるリバタリアニズムは、「個人的および経済的な自由を最大限に重視する政治的な思想・哲学」という意味です。

例えば現在の日本社会では、貧富の格差を是正するために徴税制度をはじめ経済的に豊かではない人の生活を助けるよう裕福な人の財産が徴収・分配される仕組みがあります。

しかし自由至上主義を標ぼうするリバタリアンは、個人の私的財産に対する政府の介入を一切認めない立場をとることが特徴です。個人の自由を尊重するため、あくまでも裕福な人の自発的な行為から弱者に手を差しのべる必要があります。

こうしたリバタリアニズムの思想は、個人の裁量のもとにビジネスを行う起業家や投資家、IT関係のベンチャー企業、エンジニアなどと非常に親和性が高いようです。

こうした「個人の自己所有権を第一に掲げる」という自由を求める思想が「加速主義」へと流れ込んでいきます。

加速主義とは?

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加速主義とは、簡単に要約すると「社会変革を生み出すために現在の資本主義システムを拡大しようとする政治・社会思想」のことです。

加速主義の考えは、現在世界中で主流となっている資本主義の社会システムがうまく機能していないことが背景にあります。かつて「冷戦」と呼ばれた20世紀後半の時代には、社会主義・共産主義の東側諸国と資本主義の西側諸国が対立していました。

しかしソビエト連邦をはじめ東側諸国が次々に崩壊していくと社会主義・共産主義の力が弱まり多くの国が資本主義社会へと変容。現在共産主義国家である中国も経済に関しては資本主義の仕組みを取り入れています。

とはいえ資本主義に問題がないわけではありません。冷戦崩壊後約30年以上経過した2020年現在も、経済的な格差や物価の乱高下、自然環境の破壊、国家間の摩擦など解決できない問題が次々に出てきています。

こうした問題含みの資本主義に対して対抗馬として社会主義・共産主義をあらためて打ち立てるわけではありません。

資本主義そのもののサイクルを加速させて極限まで推し進めることによって、社会がガラリと変化する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を発生させようとするのが加速主義の考え方なのです。経済活動を自由に行うリバタリアニズムの思想を過激に推し進めたものと言い換えることもできるでしょう。