2018年4月3日、スウェーデン発の音楽ストリーミング企業Spotifyがニューヨーク証券取引所で行った、「直接上場」が波紋を呼んでいる。上場初日の最終時価総額は265億ドルと目標を上回る結果となったものの、資金調達を行わず、引き受け銀行や証券会社といった仲介者を必要としない「直接上場」をあえて選択したSpotifyの真意に、疑問を唱える声は少なくない。

同社の異例の上場が「株式公開の常識を変える」という見方と、「初期のIT企業にありがちなウォール街への反発心」との見方が対立している。

世界中で1.59億人のユーザーを持つテクノロジー企業、異例の直接上場

2006年ストックホルムで設立されたSpotifyは、世界中で1.59億人のユーザーが利用する無料の音楽ストリーミングサービスだ(Statista.com2018年4月6日データ)。同社の上場は「2018年最大規模のIT上場」として注目を集めていたが、直接上場という異例の手法が上場発表当初から賛否両論を巻き起こしていた。

企業が上場する際、通常は金融機関に主幹事の役割を依頼し、投資家へのお披露目を通して自社株の需要を見極めながら、事前申し込みや抽選を行う。上場当日に上層部がメディアの取材に応じるのも、上場セレモニーの一部として定着している。

直接上場とはこうした複雑なプロセスを一切省き、第三者の介入なしに上場する手法を指す。また資金を調達する手段である新規株も発行しない。規模の小さな企業ならまだしも、時価総額200億ドルを超えるSpotifyのような企業が行うのは異例である。

「新規株を発行せず、資金調達もしないのであれば、何が目的で上場するのか」という疑問が聞こえるのも当然だろう。

新たな上場概念?「社員や既存の投資家を重視」

Spotifyの異例の直接上場には、既存の株式公開システムを覆す意図がみえかくれする。

直接上場によってSpotifyが省略できるのは手間暇だけではない。直接上場で主幹事を置かなければ、手数料が不要になる。一例を挙げるとアリババが上場した際、主幹事の金融機関に3億ドルを超える手数料を支払ったという。Spotifyが過去の資金調達ラウンドで、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンリー、アレン・アンド・カンパニーの3社に支払った手数料は、総額3000万ドルにのぼる。

また上場の通例である「ロックアップ期間」を避けることができる。通常、既存の投資家や社員が上場後半年は持ち株を売却できない仕組みになっており、期間終了日には売りが殺到すると予期される。そのため終了日近くになると、株価を下げる圧力となる。

ロックアップ期間がなければ、投資家や社員は持ち株を即売却できる。上場で株価が高騰した場合、特にSpotify設立当初から成長に貢献してきた社員にとっては、利益を得るチャンスとなるだろう(フォーチュン誌2018年1月5日、1月12日付記事)。