2020年、49年ぶりに山手線の新駅が開業する。品川駅と田町駅の中間、都営浅草線の泉岳寺駅が位置するエリアだ。付近は、新駅開業に伴う周辺整備が加速する。一方でこのエリアは、泉岳寺や東禅寺など歴史の舞台となった寺が点在する。

伊皿子坂・魚籃坂など由緒ある「坂」の街としても知られている。江戸時代から続く、午前中で売り切れる和菓子「松島屋」も人気を集める。もともとこの街が兼ね備えていた魅力と、再開発による周辺整備のねらいを探る。

第一京浜西側:歴史の街「泉岳寺」

地下鉄泉岳寺駅を降り、オフィスビルが立ち並び、車がひっきりなしに走る第一国道から1歩高輪側に入ると、泉岳寺を始めとする歴史的建造物と風情ある坂で織りなされた異空間が拡がる。高輪公園を始めとして、都会とは思えないほど多くの緑も残されている。

高輪という地名は、「高縄手道」すなわち高台を通るまっすぐな道が語源であり、それだけにこの周辺は坂が多い。坂には「魚藍坂」「伊皿子坂」「天神坂」「洞坂」など、由来が気になる名前が付けられている。

魚籃坂は、坂の中腹に魚籃寺という小さな寺があることから命名された。この寺の建立は1617年、本尊に安置されている「魚籃観音菩薩」は魚を入れた竹籠を下げるその姿から、大漁祈願・商売繁盛の神として信心されている。

駅名のもとでもある泉岳寺には、四十七士やその主君浅野内匠頭が葬られている。毎年12月4日討ち入りの日には義士祭りが催され、当時の装束に身を包んでの義士行列は60年の歴史を有する。最近では外国人観光客の姿も多い。

江戸四箇寺の一つである臨済宗妙心寺派の別格本山である東禅寺は、幕末にイギリスの初代行使オールコックとパークスが駐在していたことでも知られる。「寺に異人を滞在させた」ことで、水戸藩浪士に襲撃され双方に死者を出した。柱には、刀傷や弾痕が今も残る。

第一京浜東側:カルガモ・カワウが集まる水辺

このエリアは、海岸線が近いのも魅力だ。新駅のすぐそばを、澄んだ水の運河が走る。付近にはカルガモの休憩所があり、カワウも集まる。東京オリンピックを2年後に控え、水上タクシーも現在の2隻から60隻への増便を予定する。交通の便としてだけではなく、水の都江戸を楽しんでもらおうという趣向だ。

周辺は江戸時代、落語「芝浜」にも登場する雑魚場と呼ばれる市場もあった。東京湾研究会の調査によると、江戸前と呼ばれる東京湾の魚介類は、一ブランドを形成し1960年ごろには漁獲量20万トン近くに達した。

60-70年代の埋め立てに伴う干潟・浅場・藻場の減少や産業排水による水質悪化により決定的な打撃を受け、その後水質改善の取組は図られたものの、漁獲量は2万トンまで激減している。周辺住民は、新駅開業で水辺環境に注目が集まり、東京湾再生への取り組み強化や江戸前再生につながることを期待する。

再開発は何を目指すのか

第一京浜東側には現在車両基地が置かれており、周辺エリアを東西に分断している。面積は13ヘクタールに及ぶ。この車両基地が、2024年には新しい街に生まれ変わる。

JR東日本とUR機構が手掛け、オフィス・ホテル・住宅等のビル7棟が建築されると同時に、東西・南北に歩ける道路や広場を整備する。車両基地で分断されていた東西エリアを一体化し、東海道の高輪大木戸宿として栄えた街の再生をめざす。

第一京浜東側も、住友不動産が中心に再開発を手掛ける。第一京浜沿いには超高層ビルを建築する一方で、泉岳寺周辺には低層ビル2棟を建て、江戸時代の風情を残す町並みとの共存を目指す。

新駅開業と再開発により、車両基地と国道15号に分断されたエリアは一体化が進み陸と海とがつながる。かつて東海道と江戸の入り口として栄えた街が、復活するのだ。街づくりの完成にはまだ数年を要するが、その日が来るのが待ち遠しい。

文・ZUU online 編集部/ZUU online

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