中国の商業界において、O2O融合の新零售(新小売業)の概念は、あらゆる小売り領域にまん延している。アパレル小売業界でも、さまざまな積極的取組みが伝えられている。激烈な市場競争下、重要な経営課題の中心になっているといってよい。ファストファッションの雄、ユニクロ(ファーストリテイリング)もその例外ではない。深センの新機軸大型店の開店に合わせ、「品牌服装網」など各メディアが、ユニクロを取り上げた。ユニクロ中国は、どこをめざしているのだろうか。

新零售の進展

ユニクロは天猫(アリババのB2C通販サイト)をビジネスパートナーに選んだ。天猫にとってもユニクロとの取組みは、新零售への試金石だった。その成果は世間を驚かせた。2016年の双11(11月11日独身の日セール)では、ユニクロの売上は、わずか2分53秒で1億元を突破した。

この後、ユニクロと天猫の提携はさらに深まる。O2O融合モデルの役割分担が完成されていく。2017年の双11では、支払い、サービス体系、返品交換、どこをとっても、オンライン、オフラインの境界は消失していた。ネット通販の特価商品を、ユニクロのオフライン店舗どこでも受取ることができる。そして売上は1分もたたないうちに、1億元を突破したのである。

しかし、ユニクロはこれで満足したわけではない。消費者に対し、より多彩な消費体験を提供しようとしている。

新消費体験

2018年3月末、ユニクロは深セン市南山区の万象天地に、売場面積2600平方メートルの“全世界最新概念店”を出店した。ここは「クラシックワードローブ」「健康生活ステーション」「文化創造博物館」「24時間生活空間」の4大コンセプトゾーンに分かれており、それぞれ違った形で楽しめる。

また同店では、リアルとバーチャルを“打通”する“デジタル体験館”を開設している。スマホと連動して、バーチャル試着や、4D技術、決済など最先端の効能を提案している。

消費者は、来店するとスマホQQ(騰訊のコミュニケーションアプリ)をなぞればよい。豊富なテーマの商品群と新商品の情報、おすすめファッションや優待も得られる。その上にシチュエーションを変化させたバーチャル試着が可能なのだ。さらに商品の生地やデザインなど、縫製仕様に関わる情報まで得られる。

デジタル体験館は、消費者にオンライン、オフライン、2つの入口を準備するだけではない。時間と空間の製薬を飛び越えようとするものでもある。

デジタル体験館は、全中国600店のユニクロにも取り入れられ、O2Oの進展を後押しするだろう。やがてオンライン上でも実店舗と同様の買物感覚が得られるようになる。

日本市場に新機軸は必要ない?

一方日本では、こうした最先端の話題をあまり聞かない。日本のユニクロアプリには、そこまでの先進的な機能は付いていない。競合環境に左右されるということなのだろうか。3月の日本国内既存店売上は、前年比13%のプラスと好調だ。日本に強力なライバルや挑戦者は存在しない。これまでどおりの販促、テレビCMとチラシで十分なのだろう。

これに対して中国市場は激戦だ。例えばメンズショップ大手「海瀾之家」は、フードデリバリーの「美団外売」と組んで、衣料品の宅配を始めた。

またZARAでは、4月から世界120の旗艦店でAR(拡張現実)技術の導入を図る。この技術をもとにスマホアプリに自分のサイズや、好みを登録しておく。すると顧客に合わせたコーディネートを提案してくれる。これには強力な販促効果があるという。

ユニクロはこうした厳しい中国市場に対し、アリババや騰訊などIT大手と協力しながら挑んでいる。誰にも頼らずに進める日本市場とは、アプローチは違うようである。

とにかくユニクロ中国市場のポテンシャルを重視する姿勢は変わらない。2020年には中国本土で1000店舗を計画している。そのとき中国店舗のスタイルは、日本店舗とはまったく別物になっているかもしれない。

文・高野悠介(中国貿易コンサルタント)/ZUU online

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