ジャズと聞いてどんな音楽をイメージしますか?お洒落なカフェやバーで流れているオトナ向けの音楽……そう思っている人も多いかもしれません。しかしいま、ヒップホップやR&Bを通過した21世紀型のジャズが若者の間でひそかなブームを巻き起こしていることをご存知でしょうか。今回はそんなジャズの最新動向をご紹介します。

現代ジャズ人気の火付け役 ロバート・グラスパー

(ロバート・グラスパー『Black Radio』)

21世紀型のジャズ人気の火つけ役となったのが、NYで活躍するピアニストのロバート・グラスパーです。“新しいジャズ”をまだ知らないという人は、まずはグラスパーのアルバムを手に取ってみるとよいでしょう。

数ある作品のなかでも、2012年にリリースされた『Black Radio』は第55回グラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を受賞するなど、グラスパーの評価を確立した代表作です。R&Bやネオソウルの歌手からヒップホップのラッパーまで客演し、これまでのジャズのイメージをガラリと変化させてしまいました。

来日公演を何度も行ってきたグラスパーの魅力のひとつは、斬新なリズムにあります。彼はピアニストでありながら、ジャズにありがちな自己主張の強いソロ演奏をせず、むしろヒップホップのトラックのヨレたビートを、人力で演奏するかのようなリズムを強調しています。

LAを代表する新世代サックス奏者 カマシ・ワシントン

(カマシ・ワシントン『The Epic』)

“新しいジャズ”の震源地はNYだけではありません。アメリカ大陸の正反対に位置するLAでも21世紀型のジャズの動きが発生しています。なかでも、サックス奏者のカマシ・ワシントンはその筆頭といってよいでしょう。

2015年に発表された3枚組のアルバム『The Epic』では、ビートメイカーのフライング・ロータス監修のもと、カマシの魅力が凝縮された壮大な世界観が描かれています。総勢60人以上が参加した同作のスピリチュアルな雰囲気は、ジャズの巨人として知られるジョン・コルトレーンやサン・ラが現代的にアップデートされたかのようです。

フジロックやサマーソニックといった国内の大規模な音楽フェスティバルにも出演しているカマシですが、インパクト抜群の風貌でありながらサックス奏者として独りよがりになることがありません。しっかりとした音楽教育を受け、作編曲能力や自己プロデュース能力が高いことも彼の魅力のひとつだといえるでしょう。

圧巻の宅録ミュージシャン ジェイコブ・コリアー

(ジェイコブ・コリアー『In My Room』)

1994年生まれのジェイコブ・コリアーは、ボーカルから演奏まですべて1人でこなしている、YouTube時代の新しい感覚を持ったジャズ・ミュージシャンです。ジャズやヒップホップ、ビート・ミュージックはもちろんのこと、ア・カペラやゴスペル、フォーク、クラシック音楽など幅広い素養を備えた“天才”と呼ばれています。

コリアーは2012年に、スティービー・ワンダーの「Don't You Worry 'bout a Thing」などの名曲をカバーした動画をYouTubeで公開しました。1人で複数の楽器を扱い、多重録音で演奏するという超絶的な内容が話題となり、一躍その才能が世界中に知れわたることとなりました。

2016年にリリースしたデビュー作『In My Room』収録曲で第59回グラミー賞を受賞した彼は、いわゆるドレミの音階よりも細かい単位で音程を使い分けることができる能力の持ち主でもあります。なかでも有名なジャズ・スタンダード曲「Moon River」のカバーでは、万華鏡のように変化する歌声を聴くことができます。