「一度にまとまった資金を投資するよりも、時間を分散する方が有利ですよ」銀行の金融商品販売の窓口では、日常的にそんな説明が行われている。

ドルコスト平均法は投資の世界ではお馴染みの運用方法である。同一の投資対象を、定期的に一定金額で購入する「積立投資」のことだ。銀行は盛んにこの方法で投資信託を購入することを勧める。

銀行員の手許にあるパンフレットにも「ドルコスト平均法」のメリットが記載されており、ご丁寧にイメージ図まで示されている。多くのお客様はこの説明に「なるほど」と納得する。

だが、銀行が「ドルコスト平均法」「積立投資」を勧めるのには理由がある。「表向き」は、お客様にとって有利な投資法とされているが、本当の狙いは別のところにあるのだ。

そもそもがナンセンスな比較なのだ

そもそも、何に対して有利だというのだろう。もちろん、一括購入に対してなのだが、一括購入とドルコスト平均法での投資を比較すること自体がナンセンスだということに多くの人は気付いていない。

窓口で話を聞いている投資家だけではなく、銀行員自身もそれがナンセンスだとは気付いていないのだから、タチが悪い。

両者は金額と時間が異なる運用の結果を無理矢理比較しているのだ。大ざっぱではあるが、全体が下げ相場であれば、一括投資は不利だし、逆に全体が上昇相場なら一括投資が有利なのは、よくよく考えれば小学生でも分かることだ。

銀行にとって都合の良い「都市伝説」

ドルコスト平均法が有利であるーーそれはまるで都市伝説のようなものだ。

問題はなぜこの種の都市伝説がこれほどまでに浸透したかである。銀行は投資家のために「積立投資」を勧めているわけではない。「積立投資」が銀行にとって好都合な理由があるのだ。

周知の通り、投資信託の販売手数料は銀行にとって大きな収益源である。しかし、忘れてはならないのは信託報酬という投資家が負担するコストだ。投資家にとっては間接的にコストを負担している信託報酬も銀行にとっては大きな収益源となる。

投資信託を大口で一括購入する投資家がいれば、銀行は短期的に大きな手数料収益を得ることができる。これはこれでありがたいことなのだが、大口の一括購入の投資信託は、利益確定により解約されるのも早い。しかも、必ず再投資してもらえるとは限らない。

それよりも長期間、確実に多くの投資家から手数料と信託報酬を取り続ける方が、安定収益の確保という面から銀行にとっても都合が良い。銀行がドルコスト平均法、積立投資を盛んに勧める理由がそこにある。