どんなビジネスでも商売敵、競合相手、ライバルがある。中にはシェアを独占しているような会社があるかもしれないが、それはごく稀なケースだ。

銀行員にとって最大の競合相手はどこか。同業者である銀行ではない。証券会社だ。銀行員と証券マン、あなたはどちらを信用するだろうか。

証券会社に歯が立たないケースもある

「畜生! また横取りされたじゃないか」ーー何度煮え湯を飲まされたことだろう。ある法人が米ドルを持てあましているという情報を入手した。業績は好調、節税のために航空機のオペレーティングリースを利用しているという。

リース料は米ドルで受け取るため、同社にはかなりの額の米ドルが貯まっていた。ドル高のタイミングで貯まった米ドルを円に替える必要があるのだが、為替の予想を誤り、いまさらドルを円に替えることも出来なくなってしまっていた。ろくな金利も付かない外貨預金口座に米ドルが虚しく積み上がっていくだけだった。

たまたま支店担当者から相談を受けたことが始まりだった。「外貨預金の金利が低いので、金利の上乗せを要求されて困ってるんですよ」というただの愚痴だった。

「要するに、利益確定し損ねた米ドルを高い利回りで運用すれば良いんだよね。じゃあ、おもしろいモノ提案するよ」私が提案したのは日本の生命保険会社が米ドル建てで発行している永久劣後債だった。永久劣後債とは発行体の倒産・清算時において債務弁済順位の面で他の債務より低く、償還期限の定めがない債券だ。その特約が付いていることにより、利回りが発行体の通常の債券よりも高く設定される。さらに、有期債に比べ高いクーポンレートがついている分、投資家にとっては大きなメリットがある。

米ドル建てのため手持ちの米ドルを円に替えることなく運用できる。発行体の倒産リスクについては知名度が高く、格付の高い保険会社を選ぶことでお客様にも不安を払拭してもらう。米国の利上げは債券価格の下落を招く要因になるが、当面利上げは出来そうに無いし、利上げによりドル高になれば債券価格の下落をカバーできる可能性もある。

そしてお客様へ提案。大変喜んでいただいたのだが、結局は契約できなかった。あろうことか私の提案をそのまま取引のある証券会社へ持っていき、証券会社で同じ債券を購入してしまったのだ。

銀行と証券会社には超えられない垣根がある

私の提案をそっくり証券会社へ持っていった顧客の言い分はこうだ。

「申し訳ないが、銀行でこういう商品を買うのは不安なんだよ。結局、銀行は証券会社から商品を買って販売してるんだろ。それだけ余分な手数料を払わなければいけなくなる。こういう商品はやっぱり証券会社で買わないと不安なんだよ」

大口の契約が取れると思っていた私は唖然とした。契約が取れないばかりか、外貨預金まで流出してしまったのだ。

顧客の言い分はもっともだ。もし私が顧客の立場ならやはり同じことをしただろう。私は自分の提案が決してダメだったとは思わない。問題は、こうした金融商品において銀行は素人だと多くの人は決めつけている点だ。残念ながら、それは事実である。ほとんどの銀行員にとって外貨建の永久劣後債の提案など思いもよらない飛び道具だ。何10万ドルもの大金を素人同然の銀行の提案につぎ込むのは抵抗があるのは認めざるをえない。銀行と証券会社には超えられない垣根がまだあるのだ。