サブリース事業者の倒産で、ローンの返済に不安を抱える不動産オーナーが増えている。筆者はメガバンク勤務時代に長年、アパート、ビル事業の融資審査の責任者をしてきた。不動産担保で融資を受ける際に事前に知っておくべきサブリースの基礎知識を解説する。

不動産投資は簡単に得られる不老所得ではない

「年金代わりにお金を毎月受け取れる」、「老後が不安なので不動産オーナーになれば大丈夫」と思ってシェアハウス事業への投資をした人も多いのだろうと思う。しかし、不動産事業は簡単に得られる不老所得ではない。安易に「販売者」である業者や金融機関を盲信すると、今回のサブリース会社倒産のような被害を被ることにもなりかねないのだ。

サブリースのメリットと事業者の破綻

「直接、アパートの借主募集や、アパートの借主との契約をしなくてよい」「長期間、家賃の保証がされているので大丈夫」「空き家が出てもサブリース(又貸し)会社が保証してくれるから大丈夫」。

サブリースの便利な面を信じて、不動産投資を決意した方々もいるのだろう。しかし、2018年5月にシェアハウス事業者2社が相次ぎ破産した。賃料が振り込まれなくなり、借入した金融機関の返済が滞る心配をしているケースもあるだろう。

今さら聞けないサブリースとは

サブリース業者は、賃貸アパートや賃貸マンションをオーナー(所有者)から一括で借り上げ、一定の家賃を支払うものだ。例えば家賃が100とすると、サブリース業者が手数料10を受け取り、90をオーナーに支払うといった具合だ。更にサブリース業者が賃貸物件に空室が出た場合の「家賃保証」を行う場合もある。

富裕層や著名人が直接不動産オーナーとなって、50戸の賃貸マンションの不動産の募集を行ったり、借主と契約したりする場合を考えてみる。50枚の契約書に著名人の住所、氏名が出てしまうので、プライバシー保護の観点から敬遠する場合も多いだろう。

しかし、1棟まるごとサブリース会社に賃貸し、サブリース会社がマンションの入居者との契約を行うならば、オーナーが自ら契約する必要が無いわけだ。オーナーがその地域の不動産賃貸マーケットに精通していない、自身の事業へ時間を配分したい場合など、サブリース業者を使うメリットはある。またサブリース事業者側は、同じ地域の物件をまとめて管理できれば効率性が上がる。オーナー、サブリース業者ともに賃貸物件が安定的に稼働するならば、将来にわたって安定的な収入を得ることもできるだろう。

サブリース関連の5つのリスク

ここでサブリース関連のリスクを5つに大別してみたい

1)ネコババ、倒産リスク ……サブリース業者が賃料を受領した時点で、オーナーへ支払わずにネコババしてしまい連絡が取れなくなる、サブリース業者が倒産するなどして、本来入金するはずの賃料が入らなくなる

2)賃料変更リスク ……サブリース契約では2年毎に賃料を見直す契約になっていることが多い。この場合「30年一括借り上げ」をうたっていても、賃料水準は2年毎に変更になるのだ。新築時点では高い家賃水準、稼働率も高く満室であったとしても、年月が経過すると賃料水準が下がったり、賃貸できずに空室であった期間などもあったりするだろう。すると、当初の家賃水準とは異なる水準に「2年後」は変更されて家賃が支払われる場合もある。ローンの借り過ぎでは、ローン支払い額よりも家賃が低くなるケースも考えられるのだ。

3)空室保障免責リスク ……空室であるのに無制限に賃料を払ってもらうような、「打ち出の小槌」のような方法は存在しない。免責になる条項が契約書に示されている場合もある。

4)サブリース解約条項 ……例えば30年という期間でサブリース契約を結んだとした場合であっても、サブリース期間中に業者が解約できる場合もある。

5)修繕費用負担リスク ……サブリースに限った話ではないが、賃貸物件も経年で劣化する。長年使用して黄ばんだ壁紙、水道管や外壁の塗装、エレベータの部品交換、エアコン設備の更改など、一定期間で様々な箇所に修繕の必要がある。入ってきた家賃を全て使ってよいわけではなく、将来の修繕に備える必要があるのだ。

便利なサブリースであっても、不動産賃貸事業を行う時には、このような様々なリスクが存在することを事前にしっかりと認識することが必要だ。事前にしっかりと検証をせず、業者のセールストークに酔いしれてしまわないことだ。

契約時に不安を感じながらも、もう後戻りができないと思って契約してしまうようなことは避けた方がよい。投資は自己責任なので、勇気をもって契約しないリスク回避も必要だ。そのために自身の知識を十分に持ち、契約する前に契約内容を十分に検討する必要があるだろう。知識が自分を守ることになるのだ。

文・安東隆司(CFPRファイナンシャル・プランナー)

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