筆者の父が死亡した。遺産は自宅不動産、預貯金や株といった金融資産だった。相続人は母と長男の私、妹の3人だ。

この相続関係が大きく変わる可能性がある。父の配偶者、つまり私の母が優遇される「配偶者優遇」といえる方向での法の改正が検討されているのだ。

たとえば遺産の中心になることが多い「自宅不動産」は、相続開始後であっても、優先的に配偶者が無償で使用することができる。このような方向に新相続法は向かおうとしている。「新相続法」は、今後は誰もが避けて通ることができないのだから、知っておいて損はないだろう。

相続法改正、なぜ今なのか?

2016年現在の相続法(民法)は、1980年に大きく改正されてから、社会は大きく変わる一方、35年にもわたって大規模な見直しは行われていない。

超高齢社会の到来により、街には高齢者が溢れている。厚生労働省の資料によると、日本の平均寿命は2014年時点で男性80.50歳、女性86.83歳である。

このような状況から、相続のあり方にも大きな変化が訪れている。「相続人の高齢化」という問題だ。高齢者は現役世代と異なって自ら仕事を得て収入を得ることが難しい。高齢者たる相続人は、遺産に頼るしかないわけだ。相続が「相続人の生活保障」という役割をこれまで以上に担うようになるのだ。

相続人のなかで高齢化が顕著で遺産に頼らざるを得ないのは配偶者だろう。相続の一つの典型例としてあるが、80歳の男性が死亡した場合、相続人は同年代の配偶者、50歳くらいの現役世代の子というもの。稼げる子よりも配偶者を保護する必要がある。だから相続法が見直されているのである。

まず見直されるべきは、配偶者の「生活の場所」を確保するための制度の新設である。現役世代と異なって、高齢者になると生活の場所を見つけられない人も多いのだ。

高齢者は入居先を探すのは難しい

高齢者が入居先を探すのは容易ではない。老人ホームなどに入居する場面や、資産がたくさんあって新しいマンションなどを現金一括で購入できる場面はよいが、そうでない場合は大変である。

まずローンを組めないことが多く、借り入れによる購入は難しい。さらに「借りる」となると、貸す側が渋る傾向があるのだ。筆者に不動産の賃貸営業をしている友人がいる。彼が言うには、高齢者の物件選びは成約できないことが多いため、賃貸業者もお断りしたい場合もあるという。悲しいがこれが現実だ。