生前贈与とは何であろうか。税制改正などにより、相続税の課税対象が広がっていることを受け、生前贈与という言葉を聞く機会が増えたという人も多いだろう。生前贈与とはその名の通り、亡くなる前に資産の贈与を行うことを指し、有効活用すれば相続税額を抑えることも可能となる。まずは、生前贈与の仕組みやメリット、また注意点についてもおさえておくことが重要だろう。

相続税の課税対象拡大に伴って、生前贈与への関心も高まっている

相続税の課税対象が広がっている。国税庁によると、2016年中に亡くなった人の数は約131万人。このうち相続税の課税対象となった被相続人は約10万6,000人、課税割合は8.1%だ。前年(2015)からは0.1ポイント増だが、実はその前年(2014年)の課税割合は4.4%だった。それまで4%程度であった相続税の課税割合は2015年を境に大きく増えたのだ。

その原因は税制改正である。2013年度税制改正によって、2015年以降の相続に対し基礎控除額の大幅な引き下げが行われた。それまで相続税の対象とならなかった層にも課税が広がったのである。

相続税の負担軽減に用いられる生前贈与

生前贈与とはその名の通り、亡くなる前に財産の贈与を行うことを指している。ただ相続にからめた生前贈与とは、単なる贈与ではなく国の税制に基づいた贈与を行うことで、将来相続人となる人の相続税負担を減らすために行われるもの。相続税対策として用いられる存命中の贈与が“狭義の生前贈与”なのだ。

将来の相続税負担を軽減するために行われる生前贈与であるが、なぜ贈与を行うことが相続税負担の軽減に繋がるのであろうか。それは贈与には贈与税が、相続には相続税がそれぞれ掛かることとなるが、それぞれの税制や税率が異なるためである。

生前贈与の理解には贈与税の2つのルール、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」を理解する必要がある。

生前贈与の一般的な形 「暦年贈与」

贈与税とは、個人から財産をもらった時に掛かる税金である。贈与税の課税方法は2つに分けられるが、一般的な贈与は「暦年贈与」と呼ばれ、「暦年課税」と呼ばれるルールの下で課税される。

「暦年贈与」とは、贈与財産を受け取る人が、1月1日~12月31日の1年間で受け取った贈与財産の合計額を基に課税(暦年課税)される。「暦年課税」には、基礎控除額110万円が設けられている。つまり年間の贈与額が110万円以下であれば、贈与税はかからない。

基礎控除額を超える金額についての税率は次の通りだ。

基礎控除後の課税価格/税率/控除額
200万円以下 10% 無し
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

基礎控除を超える部分については、金額に応じた税率が適用されて課税される。生前贈与では、この基礎控除を活用し、贈与税負担を抑えつつ、相続財産を圧縮していく方法を用いることが多い。また、基礎控除を超えた場合でも、税率は段階的に上がっていくため、相続財産が多い場合等は、基礎控除を超えた贈与をしても相続税と比べて支払う税金が低くなるケースもある。

なお贈与税の計算では、贈与を受け取る人(受贈者)の贈与額が基礎となる。複数の人から贈与を受けた場合、合計が基礎控除を上回っていないかを確認する必要がある。また贈与する人(贈与者)にとってみれば、受贈者が複数いる場合には、110万円×受贈者分だけ非課税での贈与を行うことが可能となる。

暦年贈与での生前贈与を行うメリットとは?

「暦年贈与」での生前贈与を行う際のメリットは、何と言っても基礎控除の範囲内なら贈与税が非課税となる点である。受贈者1人当たり年間110万円の制限があるものの、計画的な贈与を行えば、相続資産の大部分を非課税で圧縮できる。

相続人の範囲が限定されていないこともメリットと言えよう。「相続時精算課税制度」が推定相続人である子や孫に限られることに対し、「暦年贈与」では受贈者の制限は設けられていない。法定相続人以外の人へ財産を贈与したい場合は、暦年贈与の仕組みを活用すべきであろう。

さらに「暦年贈与」は贈与者が1月1日時点で60歳以上の父母または直系の祖父母であり、受贈者が1月1日時点で20歳以上の子や孫である場合には、下記の特例税率が適用される。基礎控除額は110万円で変わらないものの、基礎控除を超える額の贈与の場合、金額によっては税率が低くなるケースもある。

基礎控除後の課税価格/税率/控除額
200万円以下 10% 無し
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

「暦年贈与」は計画的に活用すれば、非常にメリットがある制度と言える。