「未婚シングルマザー」と聞いて思い浮かべるのは、どんなイメージでしょう?仕事に子育てに苦労しつつ奮闘する、若い母親の姿でしょうか。

総務省統計局から発表されている研究レポート「シングル・マザーの最近の状況(2015年)」によると、2010年と2015年を比較して、シングルマザー世帯の総数は108.2万人から106.3万人とわずかに減っているにも関わらず、そのうち未婚のシングルマザー数は13.2万人から17.7万人と増加傾向になっています(※)。

将来的には、今以上に未婚シングルマザーを選ぶ人が増えていくのかもしれません。未婚シングルマザーを取り巻く状況、そして将来像を考えてみましょう。

(※)20歳未満の未婚の子と同居する配偶者のいない女性(祖父母等との同居を含む)のデータ。ただし2010年のデータは全数から約1%を抽出したもの。

「結婚したいと思わないが子供は欲しい」女性が増加

(写真=Ramona Heim/Shutterstock.com)

国立青少年教育振興機関が2016年に発表した「若者の結婚観・子育て観等に関する調査」によると、「結婚したいと思わないが、子供は欲しい」と考えている20代~30代女性の割合は、2008年の1.7%に対し2015年には2.8%、未婚女性に限ると3.1%に増加しています。

また、「少子化社会に関する国際意識調査」(内閣府2015年)では、20代~40代の男女で「結婚していないカップルが子供を持つこと」に対して、「抵抗感が全くない」と答えた人の割合が15.8%(2005年)から22.4%(2015年)に増加するなど、若い世代を中心に結婚によらず子供を持つことへの容認傾向も徐々に強まってきているようです。

私たちは結婚しなければ子供を持てないのか

(写真=Liudmila Fadzeyeva/Shutterstock.com)

まず、日本と海外の現状を見ていきましょう。

日本:強い結婚規範。しかし婚外出生増加の兆候も

日本に住んでいると、結婚と出産が当然のように結び付いたものと思いがちです。20代から40代までの男女を対象に結婚や出産についての意識を国際調査した「少子化社会に関する国際意識調査」(内閣府2015)を見ると、日本において、結婚は「必ずするべき」「した方がよい」を含めて「結婚するべき」と考えている人の割合は、2015年で65.5%に上ります。

これは、「結婚しなくてもよいが同棲はした方がいい」の3.1%に比べて圧倒的に多く、フランス、スウェーデン、イギリスで「結婚するべき」と答えた人の割合と比較すると、約1.6~2.5倍という数値となります。

日本にはこれだけ強い結婚規範があるのですが、先述で触れたように、未婚シングルマザーもありとする声は増えてきており、事実婚という選択肢も注目されています。

また日本でも近年、いわゆる「授かり婚」が増えていますが、欧米を見てみると、結婚前の妊娠・出産の増加というのは、婚外出生が国によっては30~40%を占めるなど珍しいものでなくなる前段階で見られる傾向なのだとか。日本でも、婚外出生が増加する兆候は表れているのかもしれません。

フランス:事実婚と結婚の中間にあたる「PACS」が約半数

「PACS(パックス=連帯市民協約)」と言葉を耳にしたことはありませんか?フランスの結婚制度の一つですが、これは、法的な縛りのゆるい「事実婚」と、宗教的にも法的にも厳格な「結婚」の、ほぼ中間に相当するカップルのあり方です。

もともとは同性カップルのパートナーシップ契約として整備されたものですが、家族のあり方の多様化が進むとともに、男女のカップルの間で急速に広まりました。現在では同性カップルでも異性カップルでもPACSと法律婚の割合はほぼ半々で、EU統計局(Eurostat)によると、出生数に占める婚外子の比率も、2016年には約60%に上っています。

PACSと法律婚の違いは大きく言うと、結婚と離婚のしやすさです。法律婚が事前の公示・健康診断や教会での挙式など複数の手続きを必要とするのに対し、PACSは裁判所に書類を提出するのみで成立します。解消の際も、裁判が必要な法律婚に対してPACSは書類の提出のみで可とされ、手続きが簡略化されているのです。

納税や社会保障など日常生活に関わる部分での差はありません。そして、婚内子・婚外子に関係なく、子どもの権利は保障されており、すべての親に親子関係の証明と子の養育が義務付けられています。

スウェーデン:法律婚へ移行する前の試行期間?「サムボ」

フランスのPACSと並んで有名なのが、スウェーデン「sambor(サムボ)」です。サムボとは、婚姻に似た形態で、継続的に住居と生計を共にする生活を営むカップルの在り方を指します。簡単に言えば「同棲制度」で、性別は問われません。

スウェーデンでは1987年に「サムボ法(Lagen om sambors gemensamma hem)」が制定され、サムボカップル対するに法的な保護が始まりました。EU統計局などの調査では、2010年にはスウェーデンの既婚者の70%以上が過去に同棲を経験しているとされ、サムボの制定によって、カップルが法律婚へ移行する一種の試行期間として、いわゆる「事実婚」のスタイルが定着していると見ていいでしょう。

サムボでは法律婚と同様に、共同生活を営むカップルは家事・育児を分担し、家計の支出を負担し合うべきことが定められています。すでに1996年には、出生した子供の半数以上が婚外子だというデータも報告されています(EU統計局「Fertility indicators」)。

特筆すべきは、スウェーデンでは子供の権利が法的・社会的にしっかりと保障されていることです。婚内子・婚外子の間に権利の差別はなく、子供の養育のための経済負担は男女平等に求められます。「父親確定制度」のもと、シングルマザーの生んだ子供であっても父親が確定され、父親は養育の義務を負います。

では、離婚やサムボ解消で両親が別れた場合はどうなるでしょう。スウェーデン政府が推奨しているのは共同養育権で、離婚カップルであれば自動的に共同養育権を持つことになります。

サムボカップルが関係を解消した場合は母親の単独養育権となりますが、申請手続きをすれば、すぐに共同養育権に移行できます。そして、もし子供と離れて暮らす親が養育費を支払わなければ、国が強制徴収を行います。スウェーデンでは育児の社会化政策が徹底されており、ひとり親家庭であっても貧困に陥ることがないよう、法的・制度的に守られています。

日本のひとり親世帯の経済状況

(写真=Yuganov Konstantin/Shutterstock.com)

未婚シングルマザーでもっとも気になるのが経済状況です。日本の現状を見てみましょう。

ひとり親世帯の相対的貧困率

シングルマザーと婚外出生が増えていく兆候を示す日本の現状。そして、婚外子を法的・社会的に支える諸外国の先進事例を見ると、私たちは必ずしも結婚しなければ子供が持てないわけではないのだ、と分かります。それでも、日本はまだまだシングル親家庭が貧困に陥りやすい社会構造となっており、シングルマザーが生きにくい現状があるようです。

貧困を測る数値である「相対的貧困率」を見てみましょう。これは「所得が中央値の半分に満たない世帯に属する人の割合」で、生きるための最低限度の食料や必需品の欠如を示す「絶対的貧困率」とは異なります。国内での所得格差に注目するものなので、先進国などにおける貧困ではこちらを問題にします。

厚生労働省が発表した2015年のデータでは、日本の18歳未満の子がいるひとり親の世帯の貧困率は50.8%。ひとり親世帯の半数以上が経済的に厳しい状況であることを示しています。これは、世界的に見ても非常に高い数値です。

親が働いているのに貧困という日本の特異性

そして日本にはもう一つ、世界の国々と比べて特異な状況があります。それは、ひとり親家庭においては、親が働いていたとしても貧困率が変わらず高いということ。国際経済全般についての協議・活動を目的とする国際機関、経済協力開発機構(OECD)
に加盟する37カ国(2018年6月現在)のうち、そんな状況にあるのは実に日本だけです。

この状況を生み出している要因としては、ひとり親のフルタイム就業が困難なこと、男女の給与格差が大きいこと、養育費の支払い率が極めて低いこと、生活保護など公的扶助の受給要件が非常に厳しいことなどが挙げられます。

そして何より、日本の家族政策は法律婚カップルからなる世帯を基礎単位としているので、フランスやスウェーデンのように、すべての子供の権利を社会全体で支える体制が弱いのです。

既婚歴で優遇が違う?「寡婦控除」の問題

(写真=Mr.Exen/Shutterstock.com)

未婚シングルマザーが抱える問題を見ていきます。

未婚のシングルマザーには寡婦控除が適用されない

ひとり親世帯の貧困について述べた状況は、配偶者と離別・死別した世帯や父子世帯にも共通する困難です。ところが、未婚のシングルマザーだけが抱える不利益があります。それは、ひとり親が所得税を納める時に適用される優遇措置「寡婦(父)控除」における問題です。

寡婦控除が適用されるのは、離別や死別によってひとり親となった人です。一度法律婚をしていることが条件とされるので、一度も結婚せずに親となった未婚シングルマザーには適用されません。

所得税が控除されないと、それに連動して住民税や保育園・学童保育の保育料の自己負担額が軽減されない、公営住宅の賃料が高くなるといった不利益があります。人によっては、婚姻歴のあるシングルと比べて年間20万円の格差が生じることもあります。

2018年度税制改革からも除外

この寡婦(父)控除における取り扱いの違いは以前より問題視されており、税制の改革を求める動きも起こっていました。しかし、2018年の税制改革では、「寡婦」の定義を法律で改正しなければならないという理由から、法律改正は2019年度の検討へと見送られ、寡婦(父)の「みなし適用」を未婚のひとり親も受けられるよう、法令が改正されることになりました。

みなし適用とは、未婚のひとり親も寡婦と「みなし」、それに準じた支援をする自治体が独自に行ってきた制度です。2014年頃から広がり始め、2017年には政令市や中核市の大半が実施しているとの報告も。

今回の法令改正は、この寡婦控除みなし適用を8月から全国に拡大するというもの。今後、保育料や児童扶養手当などにおいて、未婚・既婚にかかわらず、ひとり親が地域の区別なしに支援を受けられるようになるというわけです。

とはいえ、現状で税制上の支援にまでは及びません。法律婚をしたかしていないかでひとり親を分ける制度は、子供を持つ事実婚カップルにも影響します。この差は果たして合理的なものなのか、考える必要があるといえるでしょう。

未婚シングルマザーがサバイブするには

(写真=George Rudy/Shutterstock.com)

それでも、日本の子育て支援が法律婚家族を基礎単位としている以上、未婚シングルマザーもタフにサバイブしていかなければなりません。どんな点に注意していくべきなのでしょうか。

認知と養育費の義務をはっきりさせておく

まずは、子供の父親の責任をはっきりさせておくことからです。子供と父親の親子関係が法的に成立していなければ、父親は子供に対する扶養義務を負う必要がなく、養育費を負担する義務もありません。これは、婚姻届を出していない事実婚カップルでも事情は同じです。

親子関係を法的に成立させるには、認知の手続きをします。認知届は自主的な任意認知でもよく、相手が認めないなら家庭裁判所の審判や裁判で確定させることもできます。認知により子供も父親から養育費を得ることができ、また、父親の相続権も得ます。

行政の援助制度をフル活用する

行政の援助制度もフル活用しましょう。自治体によって違いはありますが、ひとり親世帯が受けられる行政の支援制度には、次のようなものがあります。

  • 児童扶養手当
  • 特別児童扶養手当
  • ひとり親家族等医療費助成制度・児童育成手当
  • 就学援助 また、寡婦控除のみなし適用には、次のようなものがあります。
  • 保育料の軽減や私立幼稚園就園の援助
  • 児童扶養手当の支給基準緩和
  • 公営住宅の家賃補助等・高等職業訓練促進給付金の増額
  • 母子生活支援施設入所者負担金の援助
  • 難病医療費の自己負担軽減 自治体独自の制度も多いので、自分はどんな支援が受けられるのか、確認して確実にサポートを受けていきましょう。

    どんなライフスタイルを選んでも子供を育てられる社会へ

    フランスやスウェーデンなど子供の権利を社会で支える方向に舵を切った国は、結婚の形やカップルのあり方、家族のあり方の多様性を認め、それによって差別をしない決断をした国です。結果としてこれらの国では、若いうちに結婚に準じた関係性を築くことが容易になり、出生率も上がりました。また、法律婚の外で生まれた子供も、経済的・社会的に不利益を受けることがありません。

    選んだライフスタイルの違いで、親や子供が不利益を受けたり子供が育てられなかったりする社会は、果たして生きやすいといえるでしょうか。「結婚をしないとしても子供は欲しい」。そう考える未婚女性が出産に踏み切れば、日本の出生数は確実に高まるはずです。

    結婚という決められた形でなければ子供が持てない社会、わたしたちがいつまでもそこに留まる必要はないのではないでしょうか。

    文・菊池とおこ/DAILY ANDS

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