専業主婦が少なくなり、夫婦共働きが主流となっている現代。ですが、結婚した女性が男性と同じように働けているかというと、そうとも言い切れないのが現状です。

女性個人の自主的な選択や働き方がスローダウンした結果と思われがちですが、近年、「結婚」というライフイベントそのものが女性のキャリアに影響を与えることが分かってきました。

最近の研究知見から、キャリア戦略としての「独身」あるいは「結婚」を考えてみましょう。

結婚がキャリアに与える影響①:退職

(写真=Cat Box/Shutterstock.com)

女性の場合、結婚したり子供を持ったりすると賃金が低下する現象が指摘されています。その大きな要因として考えられてきたのが退職によるキャリアの中断、そして高い職業地位に就けないマミー・トラックです。マミー・トラックとは、子供を持つ女性が昇進できず、キャリアコースから外れて同じ場所をぐるぐる回っている状態を言います。

論文『結婚は職業キャリアにいかなる影響を与えるのか?-無業・管理職への移動に関する男女比較分析-』(麦山亮太、家族社会学研究28巻2号、2016年)では、結婚がキャリアに与える影響を、退職して職業から離れる「無業への移動」とより高い職業地位へ移る「管理職への移動」の2つの側面から分析しています。

まず、「無業への移動」の傾向から見ていきましょう。

結婚の直前から「無業への移動」が起こる

この論文では、結婚がキャリアに与える影響を、結婚そのものの効果、時間経過による変化、子供を持つこととの関連性などから統計的に分析しています。すると、次のようなことが明らかになりました。

女性では、結婚しているときにもっとも無業への移動が起こりやすくなります。子供の人数には大きく左右されず、「結婚」それ自体が無業への移動を起こす効果を持っていることが分かります。

ただし、子供が増えると、今度は移動を起こりにくくする逆の影響が出てきます。このことから、子供を持っている女性は、経済的な理由などから就業継続の必要性が高いのではないかと推測されます。

結婚から6年経つと退職の傾向がストップ?

さらに時間経過との関係を見ていくと、無業への移動がもっとも起こりやすいのは、結婚1年前から結婚5年後までの期間であることが分かりました。

結婚1年前~1年後にかけてもっとも集中的に影響が表れ、結婚2~5年後は徐々に弱まりながら影響が続きます。そして、6年後以降は退職傾向がストップします。既婚女性では、結婚から5年ほどの期間を過ぎると、再び働き始めることがうかがわれます。

ちなみに男性のほうは、結婚がキャリアに与える影響や関連性はほとんど見られません。

女性は無業にならなくても非正規雇用に流れる

労働政策研究報告書No.192『育児・介護と職業キャリア-女性活躍と男性の家庭生活-』(労働政策研究・研修機構、2017年)では、世代別のデータを使って、男女のライフコースと職業キャリアの変遷を追いかけています。

この報告書の分析でも同様に、女性は結婚して第1子が誕生するまでの間に退職する傾向が浮かび上がっています。また、女性では結婚した年や第1子が誕生した1年後の時点において、初職のときよりも正規雇用の割合が低くなっていることが分かりました。

退職して無業にならなかったとしても、結婚や出産を機に、労働的な制約が比較的少ない非正規雇用へと移っていく傾向が確認できるのです。