世界各国で男女格差縮小や女性の社会進出促進への取り組みが活発化し始めたとはいえ、まだまだ大きな変化が現れるという域には達していない。

そんな中、イスラム諸国の中でも女性の権利が最も低いと認識されているサウジアラビアで、証券取引所や大手銀行のCEOに女性が任命されるなど、異例の革命的動きが起こっている。政府が熱心に取り組んでいる戦略的政策改革を追い風に、「女性が輝く社会」が実現する日は訪れるのだろうか。

中近東最大の証券取引所、大手銀行2社が女性をトップに任命

2月に入りサウジアラビアで実質上、サウジアラビア金融のトップ3の地位を女性が独占するという史上類を見ない改革が実施され、他国から反響を呼んでいる。

2月16日、中近東最大規模を誇るサウジアラビア証券取引所初の女性会長として、NBCキャピタルのサラ・アルスハイミCEOが任命されたのを皮切りに、2月19日には大手金融機関、サンバ・ファイナンシャル・グループ初の女性CEOとしてラニア・ナシャー氏が、次いでアラブ・ナショナル銀行による女性CFO、ラティファ・アルサバーン氏の任命が報じられた。

これらの女性が並みならぬキャリアの持ち主であることは疑いない。例えばアルスハイミCEOは2007年にジャドワ・インベストメントにシニア・ポートフォリオ・マネージャーとして入社後、CIOに昇格。2014年にNBC初の女性CEOに就任し、200億ドル(約2兆2420億円)の資産を運用する凄腕投資家だ。

S&P 500企業の女性CEOの割合はわずか5%

しかしどれほどビジネスの才覚に長けた人物でも、「女性であるがゆえに出世のチャンスをつかみにくい」というのが世界共通の現状だ。

レベルに多少の差はあれど、女性の労働力が市場の46.8%に達している米国でさえ例外ではない。今年1月のダウ・ジョーンズのデータによると、S&P 500企業の女性CEOの割合は5.4%。500人中、わずか27人だ。

こうした世界的な女性社会進出への逆風にも関わらず、宗教勅令上女性の自由が極端に制限されているサウジアラビアのような国で、一国しいては世界経済を揺るがしかねない金融産業の頂点に女性が3人も任命されるという異例の事態が起こるとは、誰が予想しただろう。

今、サウジアラビアで一体なにが起きているのか。女性の社会進出に向けた原動力はどこから来ているのだろう。

原油依存国から他分野の発展に 女性労働力拡大に着目

サウジアラビアに吹き始めた大胆な改革の裏側には、「原油への依存を減らし拡大の潜在性を秘めた分野の発展に力をいれる」というサウジアラビア政府の経済政策戦略がある。

サウジアラビアには非金属鉱物、製造、観光など、発展途上段階の産業が数多く存在する。金融産業もその一例に過ぎない。長年原油に依存して来た地域の多くがこれらの分野の効率化という点で遅れをとっているが、アラブ首長国連邦などは急激に進化を遂げるテクノロジーに着目し、首都ドバイを中心に国家を挙げての政策改革に本腰を入れている。

サウジアラビア政府は経済刺激戦略の一環として女性の労働力拡大を打ちだし、今後数年にわたり30%(8ポイント増)を目指している。