安倍内閣のキャッチフレーズとして浸透した「1億総活躍社会」。日本の根本的な問題である少子高齢化に正面から取り組む政策を指すものだが、その中でも最も注目を集めているのは、やはり子育て支援だろう。

保育の受け皿を確保し、子育てしながら仕事を続けられる環境を整えることで、出生率の改善や労働の拡大を実現するのが狙いである。子育て世代にとって大変メリットのある政策だが、心理カウンセラーとしては「子供の成長」において大きなリスクがあると言わざるを得ない。

怒られないようにといい子を演じることを覚えると……

まず2つの統計を紹介したい。1つは独立行政法人労働政策研究・研修機構の「専業主婦世帯と共働き世帯」の推移である。これによると、1980年には専業主婦世帯が約1100万、共働きは約600万世帯だったが、徐々に前者は減り、後者は増えてゆき、1997年に逆転して以降その差は年々広がっている。

合わせて紹介するのは、文部科学省の「全国の不登校児童生徒数の推移」だ。この統計では、もともと増加傾向にはあった不登校者数だが、1998年に一気に跳ね上がり、その後不登校比率は高いまま変わっていないことが分かる。

なぜ共働き世帯の増加が不登校者数に影響を及ぼすのか。私は、主に2つの理由があると考えている。1つは、母親の子育て時間の減少である。男性の家事育児参加が進んでいるとはいえ、やはりその多くを担っているのは女性だ。毎日を仕事に家事にと追われていると、子供に対してゆっくりと時間を持つことは難しい。

時間を作っても、言葉や態度の端々に忙しさがにじむ。子供にとって、親は最高の相談相手であり、最初に出会う人生の師である。その日の出来事を話せなければ、集団生活に適応するヒントを学べず、学校は苦しいものになる。怒られないようにといい子を演じることを覚えれば、さらにストレスを抱え込んでしまう。

もう1つの理由は保育にある。子供、特に産まれてから2歳くらいまでの子にとって、親からたっぷりと愛情を受けることは、基本的信頼感を育む上で非常に大きな意味を持つ。基本的信頼感とは、心理学者エリク・エリクソンが提唱した概念で、「周りにいる他人は基本的に味方。信頼して構わない」という根源的な安心感を指す。

反対に、これが育たなかった人にとって、自分の周りのすべての人は油断ならない存在に映る。人と接すること自体に強い不安や緊張を抱いて生活することになってしまう。

基本的信頼感を育むには、生後2歳くらいまでにたくさんのスキンシップと、無条件の愛情を惜しみなく注がれることが必要なのだが、この期間に保育施設に預けられてしまうとどうなるか。保育士は赤ちゃん1人だけを世話すれば良いわけではなく、またどれだけ一生懸命に世話をしても、親と同じ愛情を注ぐことは難しいものである以上、子供にとって愛情不足になりやすい。週に数回ならまだしも、週5日預けるのは大きな危険があることは考慮せねばならないだろう。