ラシク・インタビューvol.149

株式会社Asante 代表取締役 萩生田愛さん

鮮やかな色彩と重厚感のある花びらが印象的なアフリカ・ケニア産のバラを扱うアフリカ薔薇専門店「AFRIKA ROSE(アフリカ ローズ)」。

その美しいバラをケニアより輸入し、日本のお客さま に届けているのが株式会社Asante(アサンテ)代表の萩生田愛(はぎうだ めぐみ)さんです。

当初、オンラインショップのみでバラの販売を行なっていた萩生田さんですが、現在広尾と六本ヒルズに実店舗を構え、バラを通して現地の雇用創出などの社会貢献にも取り組んでいます。

バラの輸入販売を始めて8年目に突入した現在、私生活では1歳9ヶ月の男の子のママとして日々の育児にも奮闘中です。

今回は、そんな彼女のビジネスの原点となるバラとの出会いから出産後の仕事観の変化についてお伺いしました。

ケニアの美しいバラが教えてくれた「情熱に従い自分の道を切り開く人生」

編集部:アフリカ・ケニア産のバラは日本ではなかなか目にする機会も少ないと思うのですが、萩生田さんとバラとの出会いはどのようなものだったのですか?

萩生田愛さん(以下、敬称略。萩生田):29歳のとき、7年間務めた製薬会社を退職してNGO団体のボランティアに参加するためにアフリカのケニアに半年ほど滞在していたときのことです。ナイロビのショッピングセンターにある花屋さんではじめてケニア産のバラに出会いました。

ものすごくエネルギーに満ち溢れていて、グラデーションの色合いが綺麗な珍しい花だな…… というのが第一印象でした。今まで日本で見ていたバラとは大きさや迫力が全く違っていたので、思わず「これはバラですか?」なんてお店の方に聞いてしまうほどでした。

実際にバラを買って事務所兼宿泊施設の花瓶に生けたのですが、月曜から金曜はボランティア先の村に出かけて誰も手入れができない状態だったので、「週末戻る頃には枯れているだろうな……」と思っていたんです。

ところが、戻ってみるとすごくイキイキ咲いていて! なんてエネルギッシュな花なんだろうってすごく衝撃を受けましたね。

でもその時はまだビジネスにしようなんて思ってもいなかったんです。

編集部:そこからなぜビジネスにしようと思ったのですか?

萩生田:原点は純粋にアフリカのバラの美しさを日本の方たちに伝えたいという想いからでした。

ちょうどボランティアも終盤を迎え、今後のキャリアに悩んでいたとき、ふとバラに出会ったときの衝撃を思い出し、改めてケニアのバラ産業について調べてみたんです。するとケニアのバラは世界でも高品質を誇るバラであることがわかりました。

じゃあ、日本でも買えるだろうかと思い、通販サイトを利用してケニアのバラを購入してみたんです。でも、私が知っているあの鮮やかで大輪を咲かすバラとは程遠くて、茎も細くて、花も小ぶりで、1週間を待たず枯れてしまいました。

そのとき私のなかで「ケニアのバラはもっとすごいんだから!」みたいなアツい気持ちが溢れてきてしまって、それならば自分で日本に輸入してみようって。

編集部:輸入業はもちろん、起業自体初めてだったと思うのですが、不安はなかったですか?

萩生田:もちろんありました。でも、親友の言葉がきっかけで起業しようと決心したんです。ケニア滞在を終え帰国する途中、学生時代に留学をしていたカリフォルニアで親友の結婚式があり立ち寄った時、当時から仲良しだったケニア人に再会しました。彼女から「ケニアは失業率が非常に高く、深刻な雇用の課題を抱えている」という話を聞きました。

私自身ケニアでボランティアをしていたとき、支援や援助に慣れきって自分たちで何かしようとする気持ちを失っている現場を実際に見てきました。だからこそ、ケニアのバラを日本に向けて販売することで彼らの自立を促す雇用の創出に私自身も貢献できるのではと思ったんです。輸入の手続きについても、空港の検疫や通関の方々が丁寧に手続き方法を教えてくれました。

編集部:そうした背景があったのですね!

萩生田:そう思うまでには色々悩みましたけどね。実際、モヤモヤした気持ちを抱えながら就職活動をしたりもしましたから。でもどこかしっくりこなくて…… 挑戦してもいないのにやめるのは嫌だったので、「自分が素晴らしいと感じているバラを自分で売ってみて、ニーズがなければやめればいい」と思うようになりました。「始めは趣味のような感覚でもいいからまずはやってみて、評判がよければ少しずつお客さんを増やしていこう」そう思ったのがすべてのきっかけでした。

母になって迎えた、経営者としてのあらたなステージ

編集部:広尾本店に加え、2019年4月からは六本木ヒルズにも出店されるなど、精力的にビジネス展開されていらっしゃいますが、プライベートでは一児のママなんですよね?

萩生田:はい。息子は今月で1歳9ヶ月になりました。

編集部:子育てはいかがですか?

萩生田:こんなに我が子って可愛いんだなって初めて知りました(笑) 産まれてきてくれて心から幸せだし、これまでの人生と比べてはるかに豊かな人生を与えてもらっていて、私の活力の源ですね。

編集部:お仕事も順調でお忙しいと思いますが、育児とお仕事はどうやって両立していらっしゃるのですか?

萩生田:両立なんて、正直全然できてないと思います(笑)

たとえば、この1週間にやらなければいけないTo Doリストを作ったとして、以前の私だったらそれを前倒で完了し、次々新しい項目を達成していく感じでした。今思えば、かなりストイックだったし、「まっいっか」という妥協は一切なし。

それに比べて今は、To Doリストも1週間経ってもやっと2つぐらいしか消えなくて、ほとんどできずに残っている…… みたいな(笑) しかもやるべきことはどんどん増えていって、前倒しなんてとんでもない!

ちょっと資料を書き換えるとか一瞬でできるようなことも、その時間をみつけるのに時間が掛かってしまい簡単にできない状況なので、とにかく締切りに間に合わせるだけで精一杯。自分のなかで「両立できている」と胸を張って言えるほど、うまくやりくりなんてできていないのが正直なところです。

編集部:出産前はストイックに仕事をされてきた分、思い通りに進められない苦しみはありますか?

萩生田:はい、何でこんなに簡単なことをすぐにできないの? って自分に対してフラストレーションが溜まります。でも、振り切って考えたとき、仕事と子ども、究極どっちが大事かって言ったら、圧倒的に子どもの方が大事なんです。特に授乳中や子どもが発熱した時には私が側に居てあげたいと思っていたので、仕事と子供どちらか選ばなければならない場面では常に家庭にプライオリティーを置いていました。

そうなると、今度は仕事の方にしわ寄せがいってしまって。スタッフ間のコミュニケーションに問題が生じたり、「めぐみさん、会社にいないけど何してるんだろう?」みたいなざわつきが生じたりしちゃって…… 家族を優先することでスタッフとのコミュニケーションの時間が減り、仕事に支障をきたしてしまうことも正直あります。

もちろん、仕事で重要な場面や私が対応するのがベストな案件は夫やベビーシッターさんや実家の母に助けも求めます。夜の会食にも行きますし、もちろんケニアに出張にも行きます。最近試しているのは、1ヶ月のうち1週間子供を実家に預けて思いっきり仕事をするという方法。普段できなくてモヤモヤしていることを完了したりスタッフとしっかりコミュニケーションを取る大切な時間になっています。孫との時間を楽しめて両親孝行にもなるし、夫も私も普段は家庭を優先しているので、この1週間は2人揃って水を得た魚のように大好きな仕事に集中します。

編集部:期間を決めて仕事に思い切り集中する期間をつくる。いいですね! 母となり仕事へのスタンスが変化していくなかで、今後どのようにして現状を改善していこうとお考えですか?

萩生田:自分自身がもっともっと人生を楽しむことです! これまでは自然にできていた事なのですが、育児と仕事の両立で時間が限られると、どうしてもスタッフとのコミュニケーションも省略して、実は一番大切だったりする“他愛もない世間話”を削って、時間内に仕事の話を効率的にするように私の行動パターンが変化してしまっていることに最近気付きました。以前はスタッフと話すこと自体が楽しみだったのに……! そんなつまらない人間になってしまった自分を反省しました。また以前のように、今一緒に働いてくれているスタッフひとりひとり、今この瞬間をもっともっと大切にしていきたいです。