個性豊かな学生たちが、日々勉学に励む大学。楽しい学生生活を送っている人がいる一方で、悶々とした日常を過ごしている人も少なくないことでしょう。当然ながら、いわゆる“大学デビュー”がうまくできたからといって、必ずしもその後の人生の成功が保証されるわけではありません。この記事では、さまざまな分野で功績を残した先人たちがどんな学生時代を過ごしたか、振り返ってみます。

夏目漱石/明治の文豪は病気がきっかけとなり勉学に集中

『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『こころ』など、日本の近代文学史に刻まれる名作の数々を生み出した文豪・夏目漱石。とりたてて読書を趣味としているわけではない人も、国語の教科書などを通じてその著作にふれたことがあるはずです。

東京帝国大学(現在の東京大学)で英文学を修めたことで知られる漱石ですが、実際にはどのような学生生活を過ごしていたのでしょうか。

帝国大学入学以前の予備門時代、のちの漱石こと夏目金之助少年はあまり勤勉な学生ではなかったようで、「惰(なま)けて居るのは甚だ好きで少しも勉強なんかしなかった」(『落第』より)、「私は此の予備門に居る頃も殆ど勉強はしなかった」「勉強もせずに毎日々々自由な方針で遊び暮していた」(『私の経過した学生時代』より)と回想しています。

しかし、腹膜炎を患って予備門で落第して以降、漱石は心を入れ替えて勉学に集中。

「人間と云うものは考え直すと妙なもので、真面目になって勉強すれば、今迄少しも分らなかったものも瞭然と分る様になる」(『落第』より)と学力を伸ばし、帝国大学進学後には「大学へ進むようになってからは、特に文部省から貸費を受けることとなり……」(『私の経過した学生時代』より)と特待生にも選ばれました。

「それ程、苦しみもなく大学を卒えたような次第で、要するに何の益するところもなく、私は学生時代を回顧して、むしろ読者諸君のために戒とならんことを望むものである」(『私の経過した学生時代』より)、「とにかく三年勉強して、ついに文学は解らずじまいだったのです」(『私の個人主義』より)などと謙遜してはいるものの、実際には類まれな秀才だった漱石。

大学入学前後の“遊び”から“学び”への切り替えが、国民的作家の深い教養を形成したことがうかがえます。

ビートたけし/悩みもだえ、アルバイトを転々とした学生時代

日本を代表するお笑いタレント・ビートたけしは、映画監督・北野武として国際的に高い評価を受けるなど、その多才ぶりでも知られています。しかし、明治大学の工学部(現理工学部)の学生として過ごした青春時代は、決して輝かしいものではありませんでした。

母の意見で理系の学部に進学するも、20歳になった2年生の頃、家出同然に実家を飛び出して大学に通わなくなります(のちに除籍)。

1960年代後半は、サルトルが提唱した実存主義が流行し、ベトナム戦争の反戦運動から学生運動が全盛を極めていた時代。ジャズ喫茶に入り浸り、ボーイのアルバイトもしていた北野青年は「金はねえ、ダサい、女にモテねえ……」という葛藤の日々を過ごしていたようです。

大学にも通わず、かといって実存主義や学生運動にも夢中になれず、新宿界隈で無為な毎日を送っていた北野青年。

ジャズ喫茶のボーイのほか、タクシーの運転手やデパートの食品売り場の店員、羽田空港での荷卸しなどのアルバイトを転々とするうちに、浅草の演芸場にたどり着きます。そこで師匠にあたる故・深見千三郎に出会い、コメディアンへの道を歩んでいくことになるのです。

大学デビューとは正反対の、じつに複雑で苦悩に満ちた青春時代を過ごしたビートたけし。しかし大学の外でさまざま仕事を経験し、シビアな現実を目の当たりにしたことが、結果的に唯一無二のお笑いや映画を生み出すための“芸の肥やし”となったのかもしれません。

バラク・オバマ/意外や意外?学生時代の前半は遊び人だった元大統領

2009年から2017年まで第44代アメリカ合衆国大統領を務め、「核なき世界」を目指す取り組みによってノーベル平和賞を授与されたバラク・オバマ。大統領職を退任したあとも、政権への発言は続けています。

そんなオバマ前大統領ですが、高校時代から大学時代の前半期にかけては、決して真面目な青年ではなかったとか。

高校時代には飲酒や喫煙のほか大麻を嗜んでおり、妻であるミシェル・オバマも「彼は高校時代、学校のことをあまり真剣に考えていませんでした」「彼が宿題を済ませることは、めったにありませんでした。彼は怠け者でした」と率直に語っています。

生まれ故郷のハワイを離れてロサンゼルスのオクシデンタル大学に入学した後も、1年生の頃は「ちょっと遊びすぎていた」というオバマ前大統領。

しかし、夜通し飲み明かして周囲に迷惑をかけた経験などから「世界は自分中心で回っていない」という教訓を学び、2年後にニューヨークのコロンビア大学に編入した頃より、真剣に勉学に取り組むようになったそうです。

ある意味で陽気な学生の典型として、いわゆる大学デビューには成功していたと思しきオバマ前大統領ですが、自伝やスピーチなどではむしろ反省すべき時代として当時を振り返っています。

若いときに楽しく華やかな日常生活を送って遊び呆けるあまり、アイデンティティや目標を確立するための時間を浪費してしまう。それは、のちの人生を考えれば決して得策ではないと言えるでしょう。