平昌五輪でメダルを獲得したカナダのフィギュアスケート選手メーガン・デュハメルもビーガンアスリートの一人。

彼女は、ビーガン食が食べられる環境がそろっていないことを念頭に、遠征に行く時はビーガン食を持っていくそうです。

実は、世界のトップアスリートの中で、ビーガンは珍しいことではありません。

例えば、五輪4連覇を果たした陸上のカール・ルイス、ウルトラマラソンのレジェンドのスコット・ジュレク、そしてプロボクサーのティモシー・ブラッドリーもビーガンです。

ビーガンは、かつて極端で制限的な食生活と見られていましたが、その状況は変わりつつあります。

海外では、多くのスーパーで、自社ブランドのビーガン製品が販売されており、高級レストランやカフェではビーガンオプションが当たり前に用意されています。

ニューヨークの有名なビーガンレストランは、来店する半数の顧客はビーガンではありません。ビーガン食は「美味しくて健康的」という理由で、多くの人から支持されています。

現代のアスリートにとって、ビーガン食はポピュラーな選択肢の1つ

アスリートはたんぱく質やカルシウム等を摂るために、お肉や乳製品をよく食べるというイメージが一般的です。しかし、欧米ではお肉や乳製品をあえて食べないアスリートが増えています。

なかでも、ドイツサッカークラブのドルトムントの「食事改革」は有名です。

ドルトムントでは、パフォーマンスを上げるために、フィジカル・メンタル・テクノロジーを突き詰めていくうちに、食事の重要さにたどり着き、「体の切れを増し、怪我の予防にもつながる」として、乳製品等を取り入れない「食事改善」を取り入れました。

また、子供のときの食事で怪我は減らせるとし、ジュニアアカデミーの食堂の食事の質を改善し、その親も栄養学を学ぶことを求められるようになったそうです。

イギリスにあるフォレストグリーン・ローヴァーズ・フットボール・クラブでは、サッカーチームの食事はビーガン、ホームスタジアムで販売されている食品も全てがビーガン食。世界初のビーガンサッカークラブです。

また、スタジアムもエコスタジアムです。このサッカークラブは、ビーガン食を取り入れたことで、5部リーグから4部リーグに昇格したそうです。

また、アメリカンフットボールのスーパースター、デリック・モーガンの影響で、NFLチームのテネシー・タイタンズもビーガン食を取り入れ始めたそうですし、ゴルフのPGAツアープロ選手も、eat clean play better(良いものを食べていいプレーをしよう)ということで、ローフードやビーガンフードを積極的に摂っています。

このように、ビーガン食はトップアスリートにとって、選択肢の1つとして受け入れられ始めています。

アスリートにとってビーガンは良い選択肢なのか?

イギリスやオーストラリアでは、ビーガン人口は年々増えており、特にドイツは、ビーガン大国とも言われるほどビーガンが普及しています。

また、世界的に有名なハリウッドスターやセレブ達の間でも、ビーガンは増えてきています。

ビーガンになる人は、「動物愛護」や「環境保護」といった考えのもと食生活を変えるケースが多いです。

しかし最近では、「美味しい」「肉や乳製品の健康への影響」という、食の嗜好、健康志向からビーガンになっている人も少なくありません。

それでは、なぜアスリートがビーガンを取り入れ始めたのでしょうか?

ビーガン食はアスリートには良い選択肢なのでしょうか?そして、ビーガン食はパフォーマンス上の利点があると言われている理由はなぜなのでしょうか?

アスリートが結果を出すためには、「トレーニング」「休息」「食事」のバランスが重要なことは知られていますが、最近では、それぞれの「質」が重要視されてきています。

特に、「休息」「食事」は、疲労回復のために重要であり、結果を出すために効率よく疲労を回復させることが重要です。

ビーガン食に変えたアスリートの多くは、ビーガン食に変える前と比較して、「体調が良くなった」「体が軽くなった」「疲れが残らなくなった」「怪我が減った」と体調の変化を実感しているようです。

欧米では、健康維持や病気の予防のための代替医療や食事療法が盛んです。具体的には、食べ物がもたらす炎症作用を極力減らし、抗炎症作用の食べ物を積極的に摂ることを重要としています。

ビーガン食が注目され始めているのも、このような考え方が関係しているのではないでしょうか。

今現在において、ビーガン食とアスリートのパフォーマンス向上との因果関係を証明する、具体的な臨床データはありません。

しかし、アメリカスポーツ医学会(American College of Sports Medicine)は、

「筋肉の炎症や体内で起きるアレルギー反応を含む、あらゆる炎症反応をコントロールすることが、免疫力向上・怪我の予防・慢性炎症の予防につながる。

その結果、トレーニングをスケジュール通り行うことができ、試合に向けての体調管理ができる。ビーガン食は、そのような効果が期待できることからアスリートにも良い」

と示唆する論文を、2010年に出しています。

また、論文内では、ビーガン食では微量栄養素(ビタミンやミネラル)が不足する可能性があることから、意識的に微量栄養素を摂ることも推奨しています。

栄養学は、時代の流れとともに、その考え方がシフトしています。

従来の栄養学は、カロリー計算を重視するものや、食品中の栄養素を研究する食品管理栄養学・食品分析栄養学が中心でした。

しかし今は、代謝を進め、身体機能を高める微量栄養素に着目し、体内での栄養素の働きを研究する臨床栄養学・生理栄養学が加わりました。 

現代人は、欧米型の食事によって十分なカロリーを摂っているにもかかわらず、身体の機能低下を引き起こしています。

その原因は、便利な加工食品を食べ続けた結果、添加物の過剰摂取や、炭水化物・たんぱく質・脂質の摂取量とビタミンやミネラルの摂取量のバランスが崩れたことで、「代謝活動」が正常に営まれなくなってしまったからと言われています。

アスリートにとって炭水化物・たんぱく質・脂質はエネルギー源ですが、ビタミンやミネラルが不足してしまうと、疲れやすくなり、免疫力は下がり、怪我をしやすくなります。

そこで、「肉や乳製品を摂らないビーガンアスリートは、どうやってたんぱく質を摂るのか、必要な栄養素を十分に摂れるのか」と疑問に思うかもしれません。

たんぱく質の栄養価を示す指標を「アミノ酸スコア」と言います。

たんぱく質を構成するアミノ酸は、必須アミノ酸と非必須アミノ酸に区分されており、体内で生成することができない9種類の必須アミノ酸はそれぞれ必要量が提唱されています。

アミノ酸スコアは、食品に含まれている必須アミノ酸がどれぐらい満たされているかで算出され、100に近い数値であるほど理想的です。

アミノ酸スコアが100なのは、鶏卵・牛乳・牛肉・魚などです。しかし、大豆もアミノ酸スコアは100ですし、ジャガイモは73と高いことがわかっています。

このように、ビーガン食でも食べるものを選べば、適切な量のたんぱく質を摂ることができます。