アーティストのスプツニ子!さん。『生理マシーン、タカシの場合』など、テクノロジーを用いたアート作品を通じて、世の中のジェンダー問題に一石を投じてきた。

スプツニ子!が語る「女性活躍は逆差別」という考え方が大間違いな理由。構造的差別を無視する日本社会の盲点
(画像=Profile
株式会社 Cradle 代表取締役社長
マリ尾崎(スプツニ子!)さん
MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ助教、東京大学大学院特任准教授を経て、現在、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。 2019年よりTEDフェロー、17年より世界経済フォーラム「ヤング・グ ローバル・リーダー」選出。第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」、「Vogue Woman of the Year」、日本版ニューズウィーク 「世界が尊敬する日本人100」 選出など受賞、『Woman type』より引用)

そんな彼女が起業し、2022年4月にローンチしたのが法人向けダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)推進サービス『Cradle(クレードル)』だ。

『Cradle』では主に、「女性の健康」をサポートするサービスから展開する。これまでアーティストとして活動してきたスプツニ子!さんは、なぜ今起業家として歩み始めたのだろうか。

自身の出産経験も反映された『Cradle』をローンチ

私は両親が数学者だったこともあり、小さい頃から数学が得意でした。

でも理系分野に進学すると女性は少なく、大学のコンピューターサイエンス専攻では100人のクラスに女性は9人しかいなかった。疑問に感じて調べたら、テクノロジー進歩の歴史の中で女性のニーズや課題が忘れ去られてきた事実を知って。

それ以来、そういった社会の偏りやバイアスを解消することを自分の中のテーマに掲げて、アーティストとして活動をしてきました。

その活動の中で、もっと女性の健康に関する幅広い悩みをサポートしたいと考えたことが、『Cradle』を立ち上げたきっかけです。

スプツニ子!が語る「女性活躍は逆差別」という考え方が大間違いな理由。構造的差別を無視する日本社会の盲点
(画像=『Cradle』では、D&I オンラインセミナーとヘルスケアサポートの大きく二つのサービスを用意。オンラインセミナーではD&I の基礎知識と、体に関する知識を得ることができる。提携している50以上のクリニックには婦人科検診や卵子凍結、出産、自由診療の不妊治療、更年期検査などの特典メニューも、『Woman type』より引用)

私はPMSを和らげるためにピルを服用したり、妊娠・出産のタイミングに悩んだことから卵子凍結をしたりと、自分の体に向き合いながら仕事とプライベートのQOL(Quality of Life)を上げようとしてきました。

特に33歳で卵子凍結をしたことが大きくて。自分の出産の悩みを減らすために主体的にアクションしたことで、何か人生が変わったような感覚があったんです。

だから最初は卵子凍結を中心とした事業ができないかと構想していたのですが、日本企業の女性たちと話をするうちに、もっと多様な悩みを持っていることに気がついて。

生理、妊娠、出産、子宮内膜症や乳がんなどの病気、更年期障害……同世代の女性だけではなく、さまざまな年代の女性が何かしら体に関する悩みを抱えている。

こういった女性の健康をサポートし、D&Iを包括的に支援する事業として『Cradle』はローンチしました。

実は『Cradle』の準備中だった2021年9月、私は初めての出産を経験しました。

ずっと産むタイミングに悩んでいたのに、結果的にめちゃくちゃ忙しい時期と重なったんですよ(笑)。ライフイベントは全く思い通りにはいかないものだと痛感しましたね。

でも、自分でもびっくりするぐらい、妊娠・出産と並行して、仕事の面でもやりたいことが全部できたんです。

というのも、私はリサーチ魔で。出産や育児支援に関することなんかをめちゃくちゃ調べて、スムーズに早期復帰するための設計をしました。

例えば、24時間対応で無痛分娩ができるクリニックを探したり、母乳とミルクのどちらがいいのかを調べるために海外の論文を読み漁ったり。

産後についても、すぐにベビーシッターさんに来てもらう方法を調べる中で、保育園と変わらない料金でベビーシッターサービスを依頼できる地方自治体の居宅訪問型保育事業があることを知り、実際に活用しています。

もともとプログラマーだから、分解して考えてハックするのは好きなんです。

結果、出産2日前まで仕事をして、出産から10日後には通常通り仕事をしていました。もちろん、肉体の回復には個人差があるので、これはあくまで私の個別の事例ですけどね。

こうした自分の出産経験は『Cradle』の事業を考える上でもプラスの影響がありました。

キャリア、健康、ライフイベント……女性ならではの課題にぶつかる当事者の一人として、より必要とされる情報やサービスを届けられるようになったのではないかと思います。

選択肢を知っていれば、可能性は広がる

先ほどお話しした私の出産経験は、仕事復帰のスピードからしてかなり極端なケースだと自覚しています。これがみんなの理想ではありませんし、決して人におすすめもしません。

ただ、私は起業したばかりだったし、出産2カ月後には香港でのアート作品展示も控えていて。すぐに日常生活に復帰したかった。自分にとってはそれがとても大事なことだったんです。

そして、理想とする働き方を出産後すぐに実現できたのは、それを可能にするための選択肢を知っていたからだと思います。

特に生理や妊娠・出産など女性性が強い領域では、医療に対して積極的ではない人が多いなと感じます。「良いものをしっかり食べて体の巡りを良くすれば大丈夫」といった自然志向の医食同源の考え方が強いというか。

もちろんそれも一つの考え方ですが、それによって失うこともあるかもしれません。

せめて婦人科で定期検診をしっかり受けて不調がないか調べたり、その上で体調やライフプランに応じてピルやミレーナを使うなど、「医療に頼る」という選択肢も考えてみてほしい。

決して「こうすべき」という風な押し付けはしたくはないけれど、科学的な事実を知った上で自分がどうしたいのかと考えるだけでも、とれる選択肢も働き方の可能性もずっと広がると思うんですよね。

自分の体にもっと向き合うことで、仕事もプライベートも選択肢が広がっていくことを『Cradle』を通じて伝えていきたいと思います。