前回に引き続き、精神科医・藤野智哉さんが現代社会を生きる働く女性が身に付けておきたい「心の防衛術」について解説。
今回は、「SNSに疲れてしまう」という読者の悩みに回答してくれました。

藤野智哉さん
精神科医。産業医。秋田大学医学部卒業。幼少期に川崎病に罹患。心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続けている。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信している。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、医療刑務所の医師や看護学校の非常勤講師なども務める
Twitter:@tomoyafujino

27歳/営業職/Bさん
通勤時間や、仕事の休憩時間など、Twitterを見ているのですが、誹謗中傷や不毛な口論などを目にするとどっと疲れてしまいますし、友人の投稿を見てはうらやましくおもったり複雑な感情に。
「SNSを見るのをやめればいい」とも思うのですが、自分にとっては世の中を知る情報源でもあるので簡単にはSNS断ちができません……。
SNSに感じるストレスとうまく付き合う方法があれば知りたいです。
回答:SNSを開く時間を「他の何か」で満たす方法を考えて
Bさん自身、SNSにストレスは感じているけれど、「やっぱりやめられない」というのはやはり「SNSが好き」という気持ちもどこかあるんでしょうね。
言い換えると、「やめられない」という程度には依存していて、ハマっている部分がある。だって、本当に辛いだけなら、SNSを見なくなるはずですから。
SNSには中毒性がありますね。いい話ばかりじゃないし、いさかいごとや、不幸な話もバンバン流れてくるけれど、それがまた人間を依存させる要素でもある。
例えば、「人の不幸は蜜の味」なんて言うように、人間はなぜか他人が不幸に陥っていると快感を感じるもの。つまりSNSは、そういう「蜜」を絶え間なく供給してくれる装置なんです。そりゃあ、なかなかやめられません。
ちなみにドイツ語には、「Schadenfreude(シャーデンフロイデ、他人を引きずり下ろしたときに生まれる快感)」という言葉があります。どうしてそんな快感が生まれてしまうのか、興味がある方は脳科学者・中野信子さんの『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 』(幻冬舎新書)という本を読まれるといいですよ。

さて、本題に戻りましょう。
薬物依存症の解決策が「断つこと」であるように、SNS疲れへの根本的な解決策は、やはり「SNSをやめる」です。SNSを見て消耗してしまうなら、思い切ってやめるしかない。
とはいえ、ただやめるのは難しい。SNSをやめた代わりに何かすることがないと、きっとまたすぐに手持無沙汰になってSNSを開いてしまうでしょう。そこでおすすめなのが、別のことをして気を逸らす方法です。
僕の知り合いにも、SNS依存がひどい人がいましたが、仕事がとても忙しくなったことを機に強制的にSNS断ちを成功させた人がいました。
人間は変化を嫌う生き物なので、他の依存でもSNSでも、これまでの習慣を断つと、はじめはとても苦しく感じます。
でもふしぎなもので、その習慣を断ってからしばらく時間が経つと、その状態が当たり前になってどんどん興味が薄れていくんです。
ですから、Bさんも、「SNSを開く代わりに●●をする」と決めてしまうといいですよ。
仕事に猛烈に打ち込むのも一つの手ですが、気分転換をしたいなら、読書する、ゲームする、瞑想する、何でも好きなことでいいんです(心理学の世界ではアイロニックプロセスセオリーといいますが、人は何かを考えないように努力すればするほど考えてしまう特性があります。考えないようにするには自然に他のことに目を向けるのがコツです)。