一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

「ちょっと言葉の波動が強かったですね」。取材中に機材が大きな音を立て、空気が止まった時、彼はそう言って瞬く間に場を和ませた。

Sexy Zone中島健人。「セクシーサンキュー」というキャッチーな決め台詞と共に「ケンティー」の愛称で幅広く活動する彼は、常に目の前の仕事に真っ直ぐ向き合いながら、ファンはもちろん共演者や現場スタッフへの細やかな気遣いを欠かさない。

その姿は、時に「完璧なアイドル」とも称される。

そんな中島さんがNetflix作品『桜のような僕の恋人』で演じたのは、本来の彼とは真逆ともいえる「少し頼りない青年」だ。

監督からのアドバイス「健人くんは準備をしない方がいい」

『桜のような僕の恋人』は、カメラマンを志す朝倉晴人と、人の何十倍ものスピードで老いる難病を抱えた美容師・有明美咲の物語。深川栄洋さんが監督を務め、晴人役を中島健人さんが、美咲役を松本穂香さんが演じた。

同作品の制作が発表された約1年前、中島さんは「僕の26年の人生の最高傑作にしたい」とコメントを発表。

宇山佳佑さんによる同名の原作小説を「好きな作品」と公言していたこともあり、運命を感じた中島さんは「できる限りの準備をして撮影に臨もう」と意気込んでいた。

「それなのに、監督から『健人くんは準備をしない方がいい』と言われて。その時の衝撃は今でも鮮明に覚えています」(中島さん)

深川監督のアドバイスの背景には、「アイドル・中島健人として身に付けてきた表現力とは、全く異なるやり方で晴人を演じてほしい」という意図があったという。

「アイドルとしての彼の要素を意図的に削ぎ落とすというよりは、彼自身が役を飲み込んで、自然とその要素が剥がれていくようなアプローチをしたいと思いました」(深川監督)

「というのも、健人くんと彼が演じる晴人は真逆なんです」と深川監督は続ける。

「最初の顔合わせで健人くんに会った時、これまでご一緒した役者さんの中で最も『自分の考えを言語化する力』に長けていると感じました。会話の中でも『よく言葉が出てくる子だな』という印象で」(深川監督)

中島さんの言葉の巧みさは、ファンの間でもよく知られている。例えば声を出すことが禁止された2021年の有観客ライブ『SZ10TH』では、「黙って俺たちについてこい」と機転のきいた一言で見事に会場を盛り上げた。

だが、今回中島さんが演じる晴人は口下手なタイプ。自分の気持ちを言葉にして伝えるのも苦手な青年だ。

「だから健人くんには頭で考えて役作りをするのではなく、自分の中で晴人を醸造し、それを発酵するような時間をつくってほしいと思いました」(深川監督)

事前に考えて準備したものを本番で発表するのではなく、「本番を演じる、その瞬間に起きること」に集中してほしい。そんな深川監督の考えは、台本にも反映されている。

「健人くんと松本穂香さんには、晴人と美咲が会っていない期間のお互いの出来事が描かれていない台本を渡しました。美咲と一緒にいない間、美咲が何をしているのかを晴人が知り得ないように、健人くんにも『彼女の人生を見せない』台本を用意したんです」(深川監督)

【Sexy Zone中島健人インタビュー】「プライドは全部捨てた」深川栄洋監督との仕事で克服した過去のトラウマ
(画像=『Woman type』より引用)

こうした「準備をしない」アプローチが「ばっちりはまりました」と中島さん。深川監督と一緒に作品に向き合ったことで「役者としての基盤が作られた」と身を乗り出す。

「俳優としての考え方や演技への臨み方など、全てを一度ゼロにして、監督と再構築していった感じでした。大切なシーンに向き合うとき、それまでの僕は気持ちを乗せて1以上にしてしまっていたけれど、それをできるだけゼロにして。

『いいですか、健人くん。役者の仕事は忘れることです』というのも、監督からいただいた言葉です」(中島さん)

「僕、全部覚えていますからね! 監督のことを本当に尊敬しているんで」と、中島さんは横にいる監督に人懐っこい笑顔を向ける。

「僕の部屋にはいまだに『桜のような僕の恋人』の台本が飾ってありますから。バーンって、神を崇めるようにね。この作品以降に出演した作品も、“深川式”でアプローチしたんですよ。監督に演出していただいたのは僕の財産だし、以後の役者人生をすごく後押ししてくれました」(中島さん)

トラウマだった「泣くシーン」に開眼

本作の撮影期間はおよそ2カ月半。「まだ20代の健人くんと一緒に仕事ができたのは、素晴らしい機会だった」と深川監督もまた、当時を振り返る。

「ボールを投げると予想外の返しがくる。僕のメソッドにはない、彼の感覚で打ち返してくるものがすごく面白かったですね。そういうやり取りが彼を成長させたのだろうと思うし、それを近くで見られたのは、映画を作っている中でも特に楽しい瞬間でした」(深川監督)

本作品での中島さんの成長の一つが、「泣くシーン」にあるという。

「僕、泣く演技がとても苦手だったんですよ。数時間かけたのに泣けなかった作品が過去にあって。トラウマになっていました」(中島さん)

本作には晴人が泣くシーンが複数ある。しかも、作品において重要な場面で。だからこそ、涙を流す演技が苦手な自分から抜け出すために、中島さんは自分の全てをオープンにすることを決めた。

「今まではプライドもあって、泣くのが苦手だなんて誰にも話したことがなかったんです。でも、この作品は遠慮しちゃいけないと思った。

だから監督には、これまでの人生で起きた出来事やトラウマなど、自分の弱みとも言えることを全部話しました。それは松本さんに対しても同じ。全てをさらけ出した上で演技に臨んだら、なんだかすっきりしましたね」(中島さん)

いざ撮影が始まると、「健人くんの目からは涙がぽろぽろ出てきた」と深川監督。「泣くのが苦手というあの時の言葉は何だったんだろうと思った」という指摘に、中島さんは大きな声で朗らかに笑う。

「監督から『準備しない方がいい』と言われましたが、何も考えずにカメラの前に立ったら怖いぐらいに涙が出て。お芝居の取り組み方を監督から学べたことで、泣くシーンには全然苦労しなくなりました。開眼した感じがしますね」