生涯年収の平均額は、一般的には3億円前後と言われている。一方、生涯支出の平均額についてはどのようなイメージがあるだろうか。この記事では、一般的な生涯年収と生涯支出の計算を試みると同時にお金を準備するための3つのポイントについて解説していく。

生涯年収はどれくらいある?

一般的な人の生涯年収はどれくらいあるのだろうか。主な収入源である「生涯賃金」「退職金」「年金」の3要素に分解して、各種データをもとに計算してみよう。

生涯賃金

労働政策研究・研修機構が発表している「ユースフル労働統計2019-労働統計加工指標集-」によると、男性の生涯賃金(生涯の給与収入の総額/平均)は中学卒で2億180万円、高校卒は2億1,140万円、高専もしくは短大卒で2億1,550万円、大学もしくは大学院卒で2億6,920万円となっている。

女性の生涯賃金は中学卒で1億4,490万円、高校卒は1億5,020万円、高専もしくは短大卒で1億7,590万円、大学もしくは大学院卒で2億1,670万円だ。

また、企業規模が大きくなるほど、男女ともに生涯賃金が増える傾向にある。以上をまとめると、「学歴が高い」および「企業規模が大きい」ほど、基本的には生涯賃金も増えると言える。

なお、これらは額面収入であり、手取り収入ではない。給与水準や家族構成などにもよるが、額面収入に70〜80%をかけた数字が、だいたいの手取り収入と言えるだろう。

退職金

退職金は定年退職か、会社都合退職か、自己都合退職かなどによって、もらえる金額が変わってくる。今回は、定年退職したという仮定のもとで考えてみよう。

厚生労働省が発表している「平成30年就労条件総合調査の概況」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の定年退職金(平均)は、高校卒(現業職)で1,159万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1,618万円、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,983万円となっている。

なお、退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除が設けられていたり、他の所得と分離して課税されたりするなど、税負担が軽くなるよう配慮されている。退職金は、長年の勤労に対する報償的給与として、一時に支払われるものであるためだ。

例えば、18歳で就職して、60歳まで勤めあげたとすると、勤続42年であり、2,340万円の退職所得控除が発生する。この範囲内であれば所得税はかからない。

年金

総務省が発表した「家計調査報告 家計収支編 2019年(令和元年) 平均結果の概要」によると、高齢夫婦(夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦)無職世帯の社会保障給付は月21万6,910円、高齢単身(60歳以上)無職世帯の社会保障給付は月11万5,558円になっている。

公的年金の収入も課税対象であるが、年齢、年金以外の収入、年金収入によっては、課税負担が発生しない場合もある。詳細は国税庁ホームページを確認しよう。

この3つを足した想定生涯年収は?

それでは、上記のデータをもとに、「生涯賃金」「退職金」「年金」の3要素を足した想定生涯年収を考えてみよう。最も差が生まれるのが生涯賃金だ。まずは大学卒の男性Aさんを想定してみる。

・生涯賃金:2億6,920万円

次に退職金だ。ここではAさんが新卒で入社(22歳で入社)してから、60歳まで一度も転職せずに、60歳で定年退職を迎えたと想定してみる。

・退職金:1,983万円

最後に年金だ。Aさんには配偶者がおらず、高齢単身無職世帯だと想定してみる。さらに、老後生活は90歳までの30年間と想定したとしよう。高齢単身無職世帯の社会保障給付は月11万5,558円のため、以下のような計算式となる。

・年金:11万5,558円×12ヵ月×30年=約4,160万円

したがってAさんの生涯年収は、

・生涯年収:2億6,920万円+1,983万円+約4,160万円=約3億3,063万円

と3億円を上回る計算結果となった。Aさんは大学卒の男性のため、生涯賃金が多く、結果として生涯年収が多くなったが、これが女性であったり、高校卒であったりすると、生涯年収は低くなる。

その他の条件はAさんと同様と仮定して、「高校卒の女性(現業職)」であるBさんのケースも考えてみよう。生涯年収は以下のとおりだ。

生涯賃金 1億5,020万円
退職金 1,159万円
年金 約4,160万円
Bさんの生涯年収 1億5,020万円+1,159万円+約4,160万円=約2億339万円

Aさんに比べて、約1億3,000万円近く少ない結果となった。上記はややラフな計算ではあるが、「生涯年収は3億円前後」という一般的なイメージとは、やや乖離があるかもしれない。なお、これらは額面収入であり、ここから税金や社会保険料が引かれるため、実際の手取り金額はもっと少なくなる。

生涯消費支出はどれくらいある?

ここまで、人生をとおしたキャッシュインである生涯年収について考えてきた。ここからは、人生をとおしたキャッシュアウトである生涯消費支出について考えてみよう。

消費には大きく分けて、「非消費支出」と「消費支出」の2つがある。非消費支出とは、直接税や社会保険料など、消費を目的としない支出のことを指す。消費支出とは、個人や家族が生活を維持するために行う支出(いわゆる生活費や家計費)のことを指している。

再び、総務省が発表した「家計調査報告 家計収支編 2019年(令和元年) 平均結果の概要」を確認してみよう。単身世帯の平均消費支出は、1世帯当たり1ヵ月16万3,781円であった。また、高齢単身無職世帯(60歳以上の単身無職世帯)の平均消費支出は、1世帯当たり1ヵ月は13万9,739円であった。

年代別に分けるとより正確であるが、今回は便宜上、現役時代は一律16万3,781円、老後は一律13万9,739円と設定し、Aさんの生涯支出を計算してみよう。なお、生涯消費支出の起点は、社会人生活を始めた時点とする。

Aさんは22歳で入社し、60歳で定年退職している。90歳までの生涯消費支出の計算結果は以下のとおりだ(60〜90歳は30年間として計算)。

22~59歳の37年 16万3,781円×12ヵ月×37年=7,271万8,764円
60~90歳の30年 13万9,739円×12ヵ月×30年=5,030万6,040円
Aさんの生涯消費支出 1億2,302万4,804万円(約1億2,302万円)

「生涯年収−生涯消費支出」はどうなる?

当然ながら、収入を上回る支出はできない。家計管理においては、収入の範囲内で支出を行うことが大前提だ。それは、生涯という長い時間軸で見たときも基本的には変わらない。

それでは、上記で計算した生涯年収と生涯支出を比べてみると、どれくらいのギャップが生じるのだろうか。Aさんの場合は以下のとおりだ。

生涯年収 約3億3,063万円
生涯消費支出 約1億2,302万円

ただし前述のように、この生涯年収は手取り金額ではなく額面金額だ。手取り金額だと、どれくらいになるのだろうか。

税額や社会保険料は各人の状況によって異なるため、一概には言えないが、例えば、手取り金額が額面金額の80%とすると約2億6,450万円、70%とすると約2億3,144万円であり、生涯消費支出との差はそれぞれ約1億4,148万円、1億842万円のプラスギャップとなる。

この結果だけ見ると、かなり余裕を持った家計管理ができるように感じるかもしれない。しかし、このデータにはいくつか注意点がある。

まず、Aさんは大学卒の男性であり、モデルケースのなかでは比較的恵まれた人である。高校卒の女性であるBさんの生涯年収は、Aさんに比べて約1億3,000万円少ない約2億339万円だ。手取り金額が額面金額の80%とすると約1億6,271万円であり、社会人生活を始めた時点を起点する場合、生涯消費支出もAさんより4年長くなるため、Aさんよりも家計が圧迫される。

また、家計調査の回答者には、すでに持家がある人が一定数含まれていることが予想される。単身世帯の平均消費支出(16万3,781円)の細かい内訳を見ると、住居に関する支出は2万854円となっている。高齢単身無職世帯の平均消費支出(13万9,739円)の内訳を見ても、住居に関する支出は約1万2,855円だ。Aさんの生涯消費支出には、ある程度の住宅費負担を追加する必要がありそうだ。

Bさんだと家計が破綻?

Bさんの事例で具体的に計算してみよう。BさんはAさんよりも4年分の生活費(16万3,781円×12ヵ月×4年=約786万円)が多くかかる。また、居住地にもよるが、住居費が毎月プラス3万円かかる(3万円×12ヵ月×72年間=2,592万円)と仮定する。まとめると以下のようになる。

生涯年収 約2億339万円
手取り金額(額面金額の80%と仮定) 約1億6,271万円
生涯消費支出(住居費追加なし) 約1億3,088万円
生涯消費支出(住居費追加あり) 約1億5,680万円
手取り金額(額面金額の80%と仮定)と生涯消費支出(住居費追加あり)のギャップ プラス591万円

手取り金額(額面金額の80%と仮定)と生涯消費支出(住居費追加あり)のギャップは何とかプラス591万円となったが、退職金1,159万円が入ってくるタイミングは60歳の退職時であることを考えると、家計状況は相当厳しいと言えるだろう。