『ハウスワイフ2.0』(エミリー・マッチャー著)という、現代のアメリカ人女性の専業主婦志向に着目した書籍が注目を集めている。この本によれば、アメリカでは学歴やキャリアがあるにも関わらず、会社で働くことを辞めて専業主婦になる女性たちが増えているそう。彼女たちは、子育てや料理を中心に生活し、SNSを巧みに使って日々の出来事について情報を発信したり、手作り品のネット販売でお小遣い稼ぎをしているという。そんな、キラキラとした専業主婦の暮らしは素敵に見えて、憧れを抱く女性も少なくないだろう。だが、現代の日本社会で“キラキラ専業主婦”になることにリスクはないのだろうか? 家族社会学を研究している山田昌弘先生にお話を伺った。

著者名

社会学者・中央大学文学部教授 山田 昌弘さん

家族社会学を専門とし、愛情やお金を切り口として、親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。成人後や学卒後も基礎的生活条件を親に依存している未婚者を「パラサイト・シングル」と命名し、話題を呼んだ。1990年代後半から日本社会が変質し、若者の多くから希望が失われていく状況を「希望格差社会」(ちくま文庫)と名づけ、格差社会論の先鞭を付ける。著書『「婚活」時代』の中では、白河桃子と共に「婚活」という造語を考案・提唱し、流行させた。

長時間労働に子育ての負担……
日本人女性が“キラキラ専業主婦”に憧れるワケ

ここ数年、アメリカ同様に、日本の働く女性たちの間でも専業主婦志向が高まっていると山田先生は語る。

「今、学生や20代前半の女性たちの間で、『専業主婦となって子育てや料理を中心に生活し、余った時間を趣味やお小遣い稼ぎ程度の在宅ワークに費やしたい』と考える人が増えています。その背景には、日本人女性の普段の働き方や社会制度上の問題が絡んでいると考えられます。日本では、男女ともに長時間労働をするのが当然とされ、女性の長時間労働は世界でナンバー1です。保育園を探すのも大変な状況にあるため、子供が熱を出しても誰にも頼れず、自分が頭を下げて回らなければならない。仕事と家庭の両立に苦労する先輩の姿を見てきたという人も多いでしょう。そんな女性たちが仕事や会社への不満から、自分の趣味に没頭できるような少し裕福な専業主婦の暮らしに憧れる傾向があります」

一方で、アメリカにおける女性たちの専業主婦志向の高まりは、日本とは質の異なるものだという。

「欧米社会では男女ともに定時退社が当たり前で、キャリアウーマンでも長時間労働を強いられることはほぼありません。家族そろって夕食を食べることもできますし、保育園の制度も整い、ベビーシッターを雇うこともできる。アメリカ人女性は、『会社に使われない生き方』の一つとして専業主婦を選択しています。『会社で働くのが嫌だから専業主婦』と感情的に判断しているというよりは、より自分らしく生きる道を模索しての選択という印象です」