会社の辞令で突然言い渡される「転勤」。でも女性の場合、将来の結婚や育児のことを考えると「できれば転勤はしたくない」と思っている人も多いのでは? 最近はそんな事情を反映して、転居を伴う転勤のない「地域限定正社員」を導入する企業も増えている。長く働き続けたい女性にとってはうれしい制度のように思えるが、転勤がない代わりに一般的な正社員より給与水準が低かったり、昇進や昇格に上限を設ける企業も多く、一概にメリットばかりとは言えないようだ。では一体、女性は転勤をどうとらえればいいのだろう? そもそも、どうして会社は社員に転勤をさせるのか? そんな“女の転勤”にまつわるあれこれについて、企業の人事制度に詳しいコンサルタントの廣川明子さんにお話を伺った。

転勤による組織の活性化やノウハウ共有が
会社全体の成長につながる

「実は最近、企業の人事部から転勤に関するご相談を受ける機会が増えています。なかなか社員を異動させられず困っているというお話が多いですね」と廣川さん。でも社員の側からすれば、「なぜそこまでして転勤をさせたいの?」と疑問に思う人もいるだろう。廣川さんによれば、企業が社員を転勤させる狙いはいくつかある。一つは、コンプライアンス上の理由だ。一人の人間が長年同じ仕事をしていると、もし業者などとの癒着があっても他人の監視の目が届きにくく、不正が発覚しにくい。特にコンプライアンスに厳しい金融業界で、社員を2~3年ごとに転勤させる銀行や証券会社が多いのはそのためだという。そして、もう一つの大きな狙いが組織の活性化だ。

「何年も同じメンバーで仕事をしていると、次第に惰性で仕事をするようになり、業務を改善しようとか新しいものを生み出そうというモチベーションが低下して組織が停滞します。たとえ新人を採用しても、上の人間が固定化しているので、上司や先輩の補助的な作業や雑務しか与えられない。これでは人が育たないし、生産性や効率も上がりません。だから会社としては定期的に人を動かして、職場を活性化したいと考えているのです」

また、それぞれの支社や支店で成功事例を体験した人が他の拠点に転勤することで、拠点間のノウハウ共有が進むというメリットも。こうして組織の持つ力を高めることで、会社全体の成長につなげていくことができるのだ。

実は転勤を嫌がっているのは
女性社員ではなく男性社員だった!?

ではなぜ、こうしたメリットがあるにも関わらず、会社がなかなか社員を転勤させられずにいるのか。「働く女性が増えて、結婚や育児を理由に転勤できない人が増えたからでは?」と考えるかもしれないが、廣川さんは「それは大きな誤解。制度の運用に影響を及ぼすほど、転勤をする職種についている女性はまだまだ多くありません」と話す。

「実は今、転勤をしたがらない男性社員が増えているのです。男性でも、『子どもを転校させたくない』『持ち家を購入してしまった』といった家庭の事情で転勤を拒否するケースは少なくない。従来も企業側は、転勤の候補者を選ぶ際にそうした事情を配慮してきましたが、最近はワーク・ライフ・バランス意識の高まりから、より断りやすくなったのだと考えられます」

では、女性社員はどうかと言うと、意外にも「自分にとって意義があるなら、転勤も前向きに考える」という人も多いそう。

「転勤は会社側にメリットがあるだけでなく、社員側が得るものもたくさんあります。働く場所が変わることで、そこでしか得られない知識やノウハウを学び、各地に人脈を広げ、市場の地域特性を知る。これらは間違いなく、個人の成長やキャリアアップにつながる経験です。ですから、『知見を広げたい』『異動先でやりたい仕事ができるなら』といった理由で、転勤を選択する女性の事例もたくさん見てきました。『女性は転勤させにくい』というのは、企業側の思い込みに過ぎないことも多いと感じています」