一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

自分の職業を●●屋と明確に語れるかどうかは、会社員であっても、フリーランスであっても重要なこと。なぜなら、自分が何屋か説明できることは、自分の提供価値を理解しているということだから。

演じることを生業とする俳優・磯村勇斗さんは、言うなれば“演じ屋”。つくられた世界の中で、自分ではない何者かを演じることで、価値を提供している。

しかし、俳優というのは公的な資格があるわけでもなければ、プロとアマチュアが混在する世界。そんな中で、「職業:俳優」と名乗る人は何が違うのだろうか。

磯村さんのプロ論から、仕事について考えてみたい。

自分の芝居に、お金を払ってもらう価値があるか

俳優にとってプロとは何だろうか。そう磯村さんに尋ねると「これは明確にあって」と間髪を入れずに話し始めた。

  • 磯村さん:プロとは、芝居でお金をもらえるかどうか。舞台で言うなら、しっかりお客さんからお金をもらって板の上に立ったらその時点からプロ。ちゃんとプロとしての自覚を持たなきゃいけないと思っています。

そう迷わず磯村さんが答えたのには、理由がある。

現在28歳。今年に入ってからも大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)や『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京系)など切れ目なく出演作が続く磯村さんの俳優としての出発点は高校2年生の時。

芝居を学ぶために地元・沼津の劇団に入り、そこで初舞台を踏んだ。

演じ屋・磯村勇斗が明かす“プロ意識”に目覚めた瞬間「一つ一つの現場が勝負。期待を超えたい」
(画像=『Woman type』より引用)
  • 磯村さん:初めてお芝居でお客さんからお金をもらったのが、その舞台でした。怖かったですよ、金返せって言われたらどうしようって。プレッシャーはやっぱりあります。

    でも、そういうプレッシャーを感じているからこそ、お客さんにお金のことなんて考えさせないくらいのパフォーマンスをして、楽しかったねと言って帰ってもらいたいとも思っていました。

思い出してみてほしい、初めて働いてお金をもらった日のことを。それはもしかしたら社会人になる前。学生時代のアルバイトかもしれない。就職後の初任給かもしれない。

接客をしたり、事務作業をしたり。仕事の種類はいろいろかもしれないけれど、自分の仕事が売上につながり、それが自分の給料になって返ってくる。それがどんなに少額であったとしても、自分の口座に振り込まれた初めての給料に感動した人は少なくないはず。

  • 磯村さん:あの時はまだ高2だったし、プロでも何でもなく、アマチュアでしたけど、お客さんからお金をいただくことへの責任は感じていたし、それ以上のものを返したいという気持ちがあった。あの時が、僕がプロとしての意識に目覚めた瞬間でした。
演じ屋・磯村勇斗が明かす“プロ意識”に目覚めた瞬間「一つ一つの現場が勝負。期待を超えたい」
(画像=『Woman type』より引用)

金額に見合った価値を提供できているか、常に厳しく自分を追求する。その妥協なき姿勢こそが、磯村さんが考えるプロフェッショナルの条件だ。

チームの一体感を生む、何気ない「声掛け」

お芝居は、無形のサービス。有形の商品と違い、値付けが難しい。はたして自分の提供している価値は金額に見合うものになっているのか。

戸惑いに揺れることは、俳優だけでなく、さまざまな職種の人が感じることだろう。だからこそ、金額以上の価値を提供するために、磯村さんが心掛けていることがある。

  • 磯村さん:独りよがりにならないことですね。

    現場に入ったら、スタッフの方や共演者の皆さんとセッションしながら一緒にものをつくっていく。撮影が終わってからもそう。作品を編集して仕上げてくれる人、出来上がった作品を広めてくれる人、いろいろな立場の方がいて、ようやくお客さんのもとに届く。

    その一連のビジョンをちゃんとイメージしておくこと。一人じゃなく、みんなでつくり上げているという意識はいつも大事にしています。
演じ屋・磯村勇斗が明かす“プロ意識”に目覚めた瞬間「一つ一つの現場が勝負。期待を超えたい」
(画像=『Woman type』より引用)

そんな「チーム意識」を心に置きながら磯村さんが取り組んだのが、WOWOWオリジナルドラマ『演じ屋』だ。

依頼された役になり切る「演じ屋」を職業とする個性豊かな面々の活躍を描いた本作で、磯村さんは結婚式前日に痴漢の冤罪をかけられ、すべてを失った男・柴崎トモキを演じる。

  • 磯村さん:もし同じことが自分の身に起きたら立ち直れないんじゃないかなと思うぐらいひどい目に遭ったトモキが、演じ屋との出会いをキッカケに、復讐を決意する。

    そんな復讐劇から物語が始まって、やがてトモキ自身が演じ屋となり、仕事を通じて、社会の闇や、僕らがもう一度しっかり見つめ直さなければいけないような問題に根ざした事件や事故に遭遇していく。

    すごく社会派なんだけど、コミカルな部分もある。また新しいエンターテインメントドラマができるんじゃないかなと台本を読んで思いました。
演じ屋・磯村勇斗が明かす“プロ意識”に目覚めた瞬間「一つ一つの現場が勝負。期待を超えたい」
(画像=『Woman type』より引用)

みんなとセッションをしながらものをつくっていく。そんな俳優としての信条は、今作でもしっかりと息づいている。

  • 磯村さん:共演の奈緒さんが、とにかく芝居を純粋に楽しむ方で。僕が芝居上で何かをしたら、それに対応して一緒に遊んでくれた。

    僕自身もそうやってその場で相手の芝居に反応していくスタイルを大切にしているので、奈緒さんとのやりとりはすごく楽しめたし、自由にやりたいなという気持ちで臨むことができました。

俳優部だけでなく、スタッフとのコミュニケーションも欠かさない。特に磯村さんが重視しているのが、日々の“声掛け”だ。

  • 磯村さん:衣裳さんやヘアメイクさんとは普段から話すことが多いんですけど、照明さんとか音声さんとか技術チームの方とは相手も作業をしているから現場ではなかなか話しづらかったりするんですね。

    その分、ちょっとした休憩のタイミングを見計らって、自分から話し掛けるようにしています。

なぜなら、そうやってコミュニケーションを取っていくことが、ひいてはいい現場づくり、いい作品づくりにつながっていくと磯村さんは信じているからだ。

演じ屋・磯村勇斗が明かす“プロ意識”に目覚めた瞬間「一つ一つの現場が勝負。期待を超えたい」
(画像=『Woman type』より引用)
  • 磯村さん:特にハードなシーンが重なると、どうしても現場はピリピリしがち。だけど、そこでイライラしていても、いい空気は生まれない。そんなときこそ、他愛のない話でいいので、何か話し掛けることでその場の空気が和らぐんです。

    例えば、ちょっと変わったカメラを使っていたら、これなんですかと聞いてみたり。そうすると、こういう撮り方ができるんだよって、技術的なことを教えてくれたりするんですよ。

    もちろん相手も忙しいときがあるので、そのあたりのタイミングには注意しますけど、そうやって声を掛け合うことで、肩の荷が降りることもあるし、どんなに現場が大変なときでも一緒に乗り越えられるんじゃないかと思っています。