ドイツでお得な定番学位は歯科博士号
余談ながら、ドイツで「とりあえず何でもいいから博士号が欲しい!」という場合、伝統的に狙い目なのは歯科系です。ドイツで真面目に歯科を志している学生や医師や研究者にとっては風評的に迷惑な話ですが、実際、歯科の博士論文は誰かの研究の手伝いをやりながら集めたデータから生成しやすいので、「取れるなら取っていたほうが一応お得」な定番学位だったりします。
歴史を紐解けば第二次世界大戦時、たとえばドイツ国防軍やナチス武装親衛隊の、それも前線で死闘を繰り返す重戦車大隊の指揮官クラスでもなぜか「歯科博士号」を持っている人が妙に散見されるのが興味深い。学徒動員みたく人材払底で学者さん起用! という話ではないのがポイントですね。
その背景には戦前の深刻な就職難とか、ナチス親衛隊の社会的権威化プロセスとのシンクロとかいろいろ興味深い問題との絡(から)みとかあるのですが、たとえば「ベーケ重戦車大隊」の大隊長だったフランツ・ベーケ(最終階級:陸軍少将兼ナチス突撃隊大佐)のように、戦前戦後、実際に歯科医として開業して成功を収めているケースもあったりするので、まあ、実力・実質の有無は人によりけりと言えるでしょう
図々しさと悪びれなさと無神経さがハンパない
ということでドイツ人から見て、バッハ会長というかその手の人たちは、「ああ、あのタイプね」と類型キャラ的に認識される存在なのです。基本的に身内以外からは愛されにくいタチなのよねというか。
そして彼のようなライフコースを目指す人間は、おそらくあとを断たない。なぜかといえば、上層階級への仲間入りというのはすなわち「質の良いコネの大量獲得とその連鎖」を意味しているから。トーマス・バッハの人生でいえば、1985年以降の人生快進撃は要するにその恩恵以外の何物でもないわけです。
ドイツではこの現象を「ビタミンBによるパワーアップ」と呼びます。この「B」はドイツ語のBeziehungen「関係」、意訳すればつまり「コネ」のことですね。しかもいったんそれをゲットすれば、その有利さを世襲的に引き継げる可能性も高い。おいしすぎるぞ俺! 的な展開ここにあり。もちろん日本社会でも同様の現象はあるでしょうけど、こっちは数百年にわたる強固な伝統的実績を踏まえているだけに、図々しさと悪びれなさと無神経さがハンパないのですよ。ぐぬぬ。
というか逆に、彼らは「図々しさと悪びれなさと無神経さを武器に、道理を手前勝手に歪(ゆが)めながらここまで社会を仕切ってきた」とも言えるわけです。
そして現時点でそういう伝統的構造を倒すベクトルで動こうとしているのが、理性軽視のいわゆるポピュリズム勢力しか目立っていない、という点が、またぞろシン・理性的な悩みを深めてくれるのです。嗚呼。
<文/マライ・メントライン> マライ・メントライン 翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業。ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介されたりするが、自国の身贔屓はしない主義。というか、エンタメ作品は英米の精鋭作品のコンセプト性をベースに評価することが多いので「エンタメ途上国」ドイツへの視線は自然に厳しくなるとも言える。好きなもの:猫&犬。コーヒー。カメラ。昭和のあれこれ。牛。QJWebなどでコラムを執筆。 ツイッター@marei_de_pon
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