さくらインターネット代表の田中です。この連載は「働くすべてのビジネスパーソン」に向けて書いていきます。

働くことは楽しい。これを伝えていけると、うれしいです。

 「働くことは楽しい」と言われても実感できない方もいるでしょう。上司や先輩といった上の世代から、いかに仕事がつまらないか、苦しいものかを教えられ、上の世代が疲弊している姿を見てきてしまったかもしれません。

ただし、時代は変わりつつあります。理不尽なことも減ってきました。新しい価値観を持つ10代や20代の若い人は、上の世代に比べると働くことがつまらないとは思わなくなってきたのではないでしょうか。

 象徴的なできごとがあります。2021年2月に東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗さんが、女性軽視発言をして大きな問題となりました。

私個人としても、森元会長の発言には違和感を抱きました。ただ、違和感を抱かない人も世の中には多いようです。そうした考えの人の多様性も認めたいから、無下に間違っているとは言いたくありません。

しかし、新しい価値観からすると「あの発言はおかしい」ことが明らかになってきました。

 この流れで「苦しくても働け」といった世の中の雰囲気がなくなって、最終的に自己実現のために働くように変化していくのではないでしょうか。

そうして、さくらインターネットの社是でもある「やりたいことをできるに変える」を実践できる社会になってほしいと切に願っています。

そもそも私たちは何のために働くのか

みなさんは何のために働いているでしょうか?

 家族のためと答える人が多いかもしれません。しかし、それなら残業せずに早く帰って子どもと触れ合ったり、夫婦で過ごす時間を増やしたほうが良いはずです。でも現実は、家族のためにたくさん働いて、残業して家に帰らないケースが多いです。

経営学者でハーバード・ビジネススクールの教授もつとめたクレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーション・オブ・ライフ』に書いてあるケースを紹介します。

あるビジネスパーソンは長い間、家族のために働いてきました。しかし、家族と一緒に過ごす時間をないがしろにしたため、子どもと疎遠になってしまったり、奥さんと離婚してしまったそうです。仕事で成功をおさめても、私生活で不幸になってしまったのです。

 お金のためだと考える人もいるでしょう。でも、そうとは限りません。2021年3月18日に株式会社i-plugという会社が上場しました。私はこの会社の社外取締役をつとめています。代表取締役の中野 智哉さんは、会社の株を60%以上持っています。時価総額は250億円を超えていますから、相当なお金を持っているわけです。

もう働かなくても暮らしていけるのですが「ここが新しいスタート地点。みんなでさらに成長していこう」とおっしゃっています。

 何のために働くのか。結局は自分のためなんだと思います。自分のために働いて、結果的に家族やみんなが幸せに暮らせる。それが理想です。

働かなくても暮らせるベーシックインカム

 ベーシックインカムのように「働かなくても暮らせる状態はどうなのだろうか」という話があります。私は、別に働きたくない人は働かなくてもいいと思います。

ただ世の中には、自分が働いているのに他人が働かない状態でお金をもらうのは気に食わない。そう思う人もいます。

「自分よりも働いていない人が、自分より給料をもらっているのが許せない」

このような社員の不満を抱える会社も多いのではないでしょうか。

 自分の給料が高いか安いかよりも、自分に対して他人がどれくらいの給料をもらっているか。他人との比較をするわけです。これは多くのケースで当てはまります。

他人が自分より得することが気に食わないのは「働くことは苦しいものだ」という前提があるからだと思います。

 私は、株式会社ABEJAという会社の社外取締役もつとめています。一緒に社外取締役をつとめている麻野 耕司さんとよくお話をするのですが、「価格」はバリューベースとマーケットベースとコストベースで決まるとおっしゃっていました。

  • バリューベース=価値
  • マーケットベース=競合
  • コストベース=原価

 価格だけではなく、「自分が働く時間」もバリューベースに転換する必要があります。バリューベースでは価値を意識しますが、マーケットベースでは市場や他人を、コストベースでは何時間働いたかに重きを置いてしまいます。

会社で働く人にとって幸せな未来とは

 幸せな未来を実現するために必要なことは二つあると思います。

一つは「いまを楽しく生きること」。もう一つは「未来も安心できること」です。

家族や大事な人と過ごす時間は「いま」しかできません。

とはいえ、未来が暗いと安心できません。不安のなかで生活するのはつらい。なので、未来も安心できるように働くことが大切です。

「あなたにとってのサクセスは何ですか?」

このように、さくらインターネット内でヒアリングしたところ「キャリアアップ」という答えが一番多かったです。これからの未来も食べていけることが、働いている人にとって重要になります。

 金融庁によると老後の生活には2000万円が必要になるそうです。でもこれは「働くのをやめた場合の話」です。いまの時代、80歳以上で仕事をしている方も多くいらっしゃいます。

以前、アパホテル社長の元谷 芙美子さんが「お金は貯金しないで、使わないと」とおっしゃっていました。お金を使うというのは、”浪費”ではなく”投資”のことです。子どもに投資してもいいですし、会社を作って投資してもいいですし、人間関係に対して投資してもいいです。そうすれば、将来はそんなに暗くならないはずです。

 いまを楽しみ、未来も安心できるように投資をする。これが働くことの本質ではないでしょうか。