立ち直る、立ち上がれる、何度でも。
再生する女たち

人生100年時代。長い長い人生は、楽しいことばかりではない。時には「もう無理」と嘆きたくなるような、つらい時期もあるかもしれない。でも、私たちは必ず、立ち直ることができる――。それを証明してくれる、女性たちの姿を紹介しよう

「もうやってられるか!」と、仕事終わりにビールをあおる。ストレス発散の手段としてお酒を飲むことも時にはあるだろう。だが、憂さ晴らしだったはずのお酒も度を超えれば、記憶をなくしてしまったり体調を崩してしまったりと、悪影響を及ぼす。

自身のアルコール中毒体験を描いたエッセイ漫画『アル中ワンダーランド』(扶桑社)で注目を集めたまんしゅうきつこさんも、お酒を飲み始めた最初のきっかけはストレスだった。飲酒量はどんどん増え、幻覚や被害妄想、記憶障害と、症状は悪化。そこからどう立ち直ったのだろう。今では「お酒は完全に断った」という彼女が新しく見つけた癒しの場とは……?

「落ち込んだときは、サウナでラリってムエタイで強くなれ」元アル中、まんしゅうきつこがお酒の代わりに見つけた逃げ場
(画像=漫画家・イラストレーター
まんしゅうきつこさん
埼玉県生まれ。日大芸術学部卒。2012年に始めたブログ『まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど』で注目され、15年には自身のアルコール中毒体験を描いた単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)を刊行。その他著書に『ハルモヤさん』(新潮社)『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)などがある。最新書籍『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)も好評
Twitter:@kitsukomz、『Woman type』より引用)

ネットの悪意に立ち向かうために、お酒を飲み始めた

私は3年前、『アル中ワンダーランド』という漫画を描きました。自分のアル中体験を元にしたエッセイ漫画。笑って楽しんでほしいと思って描いたんですけど、アル中の渦中にいた当時は本当にしんどかったんです。

「落ち込んだときは、サウナでラリってムエタイで強くなれ」元アル中、まんしゅうきつこがお酒の代わりに見つけた逃げ場
(画像=『アル中ワンダーランド』より、『Woman type』より引用)

もともと付き合いでビールを2〜3杯飲む程度だったお酒の量が増えてしまったのは、ブログを始めたことがきっかけでした。思いの外反響が大きくて、「面白い」ってコメントをいただく一方、「早く死ねよ」みたいに言われることもあったんです。9割がいいコメントだったとしても、一つの悪意が全てをぶち壊すんですよ。

もう書きたくないし、辞めちゃおうとも思ったんですけど、すでに書籍化の話が決まっていました。それに、ひどいコメントを送ってくる人たちをギャフンと言わせるためにも、「書き続けなければ」って思ったんです。ああいう人達って心を折って筆を折らせることが目的なので、ひどい反響があればあるほど、絶対に続けてやろうって思った。

そこに立ち向かうために、飲み始めたのがお酒です。お酒を飲んで、全員ぶっ殺してやろうと思っていました。書いたやつ一人一人を待ち伏せしてやろうとか、家に押しかけて火つけてやろうとか考えていて、「私が刑務所に入ったらごめんね」って母にも伝えていました。実際にはやらなかったけど、まぁ、そういう妄想をする時期ってみんなありますよね……(笑)?

「落ち込んだときは、サウナでラリってムエタイで強くなれ」元アル中、まんしゅうきつこがお酒の代わりに見つけた逃げ場
(画像=取材当日、前歯がなかったまんしゅうさん。「差し歯がとれてしまって」とのこと、『Woman type』より引用)

そんな感じでお酒を飲むようになったわけですが、だんだん加減が分かんなくなっちゃったんです。カレーにハマったらカレーばっかり食べ続けるみたいな感じで、1日中お酒を飲むようになっちゃった。お酒飲んで訳わかんなくなってる時って楽しいんですよ。朝起きて冷蔵庫を開けてウイスキーを飲んで、合法的にラリるのが好きだったんです。

ただ、朝から1日かけてウイスキーをひと瓶空けるような生活を続けるうちに、楽しいラインを越えて、しんどくなっちゃった。夜に少し飲むくらいなら平気だったと思うんですけど、1日中ずっと飲み続けちゃったんです。連続飲酒が一番良くないらしくて、明らかに体調も悪かった。

その結果、酔っ払ってご近所の人とケンカして「あの家の人は頭がおかしい」って噂が流れちゃったし、イベントではおっぱいを出しちゃいました。しかもブサイクな方のおっぱいを……。記憶が飛んでいたので覚えてないですけど、その場を盛り上げなきゃっていう使命感に駆られちゃったんでしょうね。

「落ち込んだときは、サウナでラリってムエタイで強くなれ」元アル中、まんしゅうきつこがお酒の代わりに見つけた逃げ場
(画像=『アル中ワンダーランド』、『Woman type』より引用)

駅のホームでお酒を片手に電車を眺めながら、「死にたい」と思っていた時期もありました。このころはつらい気持ちから逃れるために酔っ払いたくて、最終的にはみりんや消毒用のアルコールも飲みました。酔えればなんでもよかったんですよ。記憶が飛んでラリってる間は、つらさがかき消されるんです。

まんしゅうきつこから消えた“負のオーラ”
「サウナなら健康的にラリれる」

「落ち込んだときは、サウナでラリってムエタイで強くなれ」元アル中、まんしゅうきつこがお酒の代わりに見つけた逃げ場
(画像=『Woman type』より引用)

普段はどんな場面でも、もう一人の自分が冷静に状況を見ていて、「このセリフは使えるな」「これはいつか漫画にしよう」って考えているんです。でもアル中の時は、冷静な自分はいなかったんですよ。この体験を漫画にしようなんて思ってもいなかった。つら過ぎたんですかね。

宮田珠己さんが『まんしゅう家の憂鬱』の書評で「考えすぎてタガの外れた人」って書いてくださったんですけど、振り切れてしまった時の自分のことが自分でも怖いんです。一定のラインを越えてしまった時に、「人生どうなってもいいや」「ここで死んでもいいや」って思っちゃう。漫画にしていることは全部振り切っている時の話で、基本は人の目も気になるし、恥ずかしいんですけどね(笑)

アル中は病院に通って回復して、今はもう全く飲んでいません。飲みたい気持ちはかなり薄れていて、飲まなくても平気なんだってようやく思えるようになってきました。飲まなくても楽しめるし、飲みたい時はノンアルコールビールで満足できる。

実は回復した後に一度お酒を飲んじゃって、また良くない状態になってしまったことがありました。『アル中ワンダーランド』を描き上げてしばらくしたころだったと思います。あ、担当編集の高石も今アル中で病院に通ってるんですよ。

「落ち込んだときは、サウナでラリってムエタイで強くなれ」元アル中、まんしゅうきつこがお酒の代わりに見つけた逃げ場
(画像=『湯遊ワンダーランド』、『Woman type』より引用)

『アル中ワンダーランド』を作っているときに「編集として、まんしゅうさんの気持ちが分からないといけない」って、朝からワインを飲むということを意識的に始めたみたいで。最近、記憶が飛んでいる間に上司に電話して暴言を吐いたり、会社の悪口をツイートしたりいろいろあったらしく、本人も「これはヤバイ」って病院に行ったらアル中って診断されちゃって。それ以来、「2人とも飲まないことが断酒会」みたいな感じになっています。私が飲んだら高石も飲んじゃうし、高石が飲んだら私も飲むだろうから、お互いが抑止力になっていますね。

あとは、サウナとの出会いが大きいんです。アル中の時にライターのヨッピーからサウナを勧められて、その後に弟からも勧められた。2人から言われるならとりあえず行ってみるかと思って通うようになったら、「これはラリれるな!」って気が付いて。

サウナ後の水風呂の感じと、お酒を飲んでふわっとする感じは似ているんです。サウナなら合法的に、健康的にラリれる。こりゃあいいぞって、すっかりハマりました。

「落ち込んだときは、サウナでラリってムエタイで強くなれ」元アル中、まんしゅうきつこがお酒の代わりに見つけた逃げ場
(画像=『湯遊ワンダーランド』、『Woman type』より引用)

『アル中ワンダーランド』を描いていたころは「負のオーラがヤバイ」ってめちゃくちゃ言われていたんですけど、サウナに出会ってからは「負のオーラが消えた」って言われるようになりました。アル中当時の自分には、ぜひともサウナに入ってほしいですね。