声優専門月刊誌『声優グランプリ』(主婦の友インフォス/発行)の付録「声優名鑑2021」によると、女性声優の数は955名、男性声優の数は600人超えと発表されました。
声優人口は男女ともに増加していて、史上最多の人数となっています。20年前と比べると4倍にも増えているそうです。こちらに掲載されている以外にも多くの声優がおり、人気の職業だとわかります。
そんな人気職業の声優ですが、多くの方は声優プロダクションに所属しています。今回の福原香織さんの連載では、福原さんが所属している声優プロダクション社長の松原勝彦さんとの対談をお届けします。

松原 勝彦(まつばら かつひこ)さん プロフィール
株式会社ブライト イデア 代表取締役、株式会社ビットグルーヴプロモーション代表取締役。
ーー松原さんが代表をつとめる株式会社ブライトイデアですが、設立は2018年ですが、起業(株式会社ビットプロモーションから部門独立)しようと思ったきっかけを教えてください。
松原勝彦(以下、松原):20年以上前に、この業界に入りました。最初はプロダクションと映像制作をやっている会社に入社して、その後にゲームメーカーに移りました。そして、いま代表をつとめている株式会社ビットグルーヴプロモーション(旧:ビットプロモーション)を立ち上げたんです。そこではゲームの音響制作を中心に仕事をしていました。
その後、声優プロダクション事業をおこなうためにブライトイデアを2018年2月22日に立ち上げたのですが、ちょうどその日に足を骨折して3か月くらい入院しました(笑)。
福原香織(以下、福原):本当、大怪我でしたよね。波瀾万丈なスタート。
声優プロダクションのビジネスモデル
ーー声優プロダクションの収益構造について教えてください。
福原:話せる範囲でいいですからね(笑)。
松原:わりとシンプルです。所属声優のギャランティの中から数十パーセントを事務所のマージンとしていただきます。パーセンテージは事務所によって違いますが、業界のほとんどは同じ構造だと思います。いわゆる歩合制というやつです。
でも、声優のマネージメントだけで食べていける事務所は少ないと思いますよ。マネージメント業だけではなく、養成所ビジネスだったり、製作に関わったりしないと厳しいです。
福原:養成所をやっているプロダクションは多いと思います。私たち声優は基本、完全歩合ですね。確定申告も自分でやります。
松原:声優の雇用形態としては業務委託になります。お笑い業界と近いですかね。個人事業主として声優がいて、マネジメント契約をプロダクションと結んでいます。お笑い業界や芸能業界と違うのは、マネージャーの付き方ですかね。
現場や案件によってマネージャーが変わるんです。声優業界の場合、マネージャーはタレントに付くわけではなくて、案件(作品)に付きます。これはメリット・デメリットあると思いますけどね。

ーー同じマネージャーが付くのと、案件ごとに違うマネージャーが付くのは声優としてはどちらのほうがやりやすいんですかね?
福原:そのときの年齢やキャリアによると思います。私のいまの状況だったら、なんの不便もないですけど、新人の方だと大変かもしれないです。新人のころはわからないことが多いし、仕事を得るためにも、いろいろな人に顔を覚えてもらわないといけません。そこでマネージャーが毎回違うと大変ですよね。
食べていけるのは、ほんの一握りの世界
ーー新人だと声優の仕事だけで食べていくのも大変そうですね。
松原:新人に限らず、声優業だけで食べていける方はほんの一握りです。売れている声優でもアルバイトをしているケースもあります。最近テレビで話題になりましたが、アニメの場合は1本の出演料が1万5千円。そこからプロダクションへマージンを支払います。さらにそこから税金が引かれますから。そう考えると、食べていくのがどれほど難しいかわかりますよね。
福原:本番までに台本を読んだり、準備する時間もありますからね。
松原:そうそう。アニメだけでは厳しいけど、アニメに関連するイベントやキャラクターソング、ラジオなどがあって食べていけるようになります。あとはスマホアプリやゲームですね。アニメで名前を売って、アプリやゲームで収入を得るケースもあると思います。世間的には声優=アニメというイメージがありますが、それだけだと厳しいですよ。
福原:前回の野水伊織ちゃんとの対談でも同じような話が出ました。アニメに出ていないといろいろ言われることもあるけど、声優の仕事ってアニメだけではないんですよね。
松原:本当はゲームやナレーションのほうがお金になるからね。

ーーほんの一握りの方しか食べていけないということですが、業界全体の取り組みで改善しようとしていることはありますか?
松原:業界全体の話だと大きすぎてお話しできませんが、ブライトイデアとして取り組んでいることをお話しします。いままでは一つのプロダクションが、一つの養成所を作って運営することが基本でした。
以前はこのビジネスモデルでも通用していましたが、養成所が増えて、専門学校や4年制大学で声優学科ができてきました。さらに少子化が加速しています。そうなると競争が激しくなり、厳しくなってきます。プロダクションとしては、養成所を作ることがリスクになってしまうんです。
そこで複数のプロダクションが協力して、一つの養成機関に新人の発掘・育成を委託するビジネスをはじめました。
それが「東京ナレーション演技研究所」です。
これは別会社が運営しているのですが、さまざまな特色を持ったプロダクションが入ることで、新人声優の選択肢を広げたいと考えています。さらにレッスン料も安いので、挑戦しやすくなっています。ただし、誰でも挑戦はできるけど、誰でも声優になれるわけではありません。
自分が「やりたいこと」と「できること」と「評価されること」では違うことがあります。そこをうまく繋げていければと思っています。
福原:声優の立場から言うと、声優界は厳しい世界です。明日どうなるかもわからない世界です。華やかに見える部分も多いですが、誰でもなれる職業ではないということを肝に銘じて目指してほしいです。でもその分、本当にやりがいのある素敵な職業だと思います。
松原:そのとおりですね。声優業界で活躍し続けている人って「アスリート」なんですよ。100メートルを10.2秒で走れていたとして、いつか100メートルで10秒を切る人が出てきたら負けちゃうわけです。そうなったら仕事はなくなります。活躍し続けている人はその危険を常に感じているので、向上心があるしストイックです。
そうした人たちと戦っていくわけですから、実力と努力と工夫は絶対に必要になります。さらにその先に運とタイミングがあります。運とタイミングは自分ではどうしようもありませんが、実力と努力と工夫がない限り活かすことができません。
福原:アスリートっていう表現は面白いですね! 事務所に入るのも大変だけど、入ってからが大変ですから。