NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、今日は嵩(北村匠海)と弟・千尋(中沢元紀)が向き合ってお話をするだけで15分。いわゆる熱のこもった芝居合戦といった趣でした。子どものころはおめめクリクリのおチビちゃんだった千尋が切れ長ガチムチに成長して現れたときはびっくりしましたが、こうして海軍士官になってみると、なかなか堂々として立派ですな。どこか頼りない兄貴との対比も効いています。

『あんぱん』ただ史実をなぞるだけ

 嵩パートについては、卒業制作が遅れて寛おじ(竹野内豊)の死に目に会えなかったり、幹部候補生試験の前日に馬小屋で眠りこけたりと細部まで史実に忠実であろうとしている姿勢が見えておりますので、おそらく千尋は死ぬのだろうな。今生の別れとなるわけだ。そりゃ15分まるまる使いたくなる気持ちもわかる。

 でもねー、ここに至るまでに、やっぱり兄弟2人の関係性の蓄積というものが足りないと思うんですよ。足りないというか、決定的に欠落している部分がある。

 寛おじが死んだときね、この2人が思いを伝え合う場面がなかったことがすべてだと思うんです。片や物心がついたかつかないかの時期に養子に入って、寛おじを「お父ちゃま」と呼んで育った千尋、片や寛おじが死ぬまで「お父さん」と呼べなかった嵩。まあ、その構図は寛が死んだ瞬間に後手で差し込まれたものではあったわけですが、ともあれこうして千尋の死に際に2人を対峙させる場面があるのだとすれば、丁寧に前振りを作っておく必要があったはずです。

 それがないから、せっかく役者さん2人が熱のこもったお芝居をしているのに、何を話しているのか全然頭に入ってこない。第54回、振り返りましょう。

なんか怒ってるなぁ

「どういうことだ? 俺はてっきり、京都帝国大学に行って勉強に励んでいるとばかり。ちゃんと説明しろ」

 時は昭和19年、学徒出陣の翌年ですね。千尋の年齢については明言されていませんけれども、酒を飲んでいるということは20歳を超えているのでしょう。そして嵩は陸軍の伍長で、当然陸軍にだって学徒が徴用されてきているはずです。実際に小倉連隊に来なかったとしても、「学徒出陣」について知らなかったは通らないでしょう。むしろ、法学を学んでいた千尋が兵隊に取られていないほうが不思議です。