のぶさん(今田美桜)パートは資料がないし、史実とは違う「幼なじみ」という設定にしたことでグダグダになってしまいましたが、一方の嵩くん(北村匠海)の軍隊パートはそれなりに資料があって、史実に沿う形で作ろうとしていることでグダグダになっている。もはや終戦間際の日本軍のごとく、八方ふさがりという状況になってまいりましたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』。屈指の厳しさで全国に名をとどろかせていたはずの陸軍小倉連隊は「大人の修学旅行」もしくは「キッザニア陸軍体験」みたいな趣になってきましたね。

『あんぱん』ズルい作劇が描く戦争の甘さ・軽さ

 やなせたかしさんは軟弱な性格だった。やなせたかしさんは幹部候補生試験の前日に馬小屋で眠りこけてしまった。やなせたかしさんは乙幹に合格して伍長になった。このあたりの史実をなぞるだけの作業を、今日は見せられました。

 なんで軟弱な性格なのに何年も軍にいられたのか。なんで数多くいる新兵の中から幹部候補生試験を受けられたのか。その裏に何があったのか。わかんないんだろうな。出世したという史実だけがあって、プロセスがない。この時期ののぶちゃんは完全フィクションだから開き直って好き勝手に描けたけど、嵩についてはいちおう史実からズラすことはできない。でももう、やなせ氏に直接取材もできない。ウソを書くわけにもいかない。

 結果、そのプロセスを八木上等兵(妻夫木聡)という謎のチート人物にすべておっかぶせて、説明しないことで押し切ろうとしている。

 基本的にね、私たちはドラマを見ているわけですし、ドラマから与えられた情報だけで物語を理解したいんですよ。伍長になるなら、伍長になるだけの理由や段取りをドラマの中だけで納得させてほしいの。「実際、史実では伍長になってますから」って言われても、知らんのよ。もっといえば、乙幹とか伍長とか言われても、それが当時の軍の中でどんな存在なのかも知らんの。