「一緒に涙を分けてきたがや」と寛先生(竹野内豊)が言って、のぶちゃん(今田美桜)は泣き出してしまいます。ぽろぽろと大粒の涙を流して、とってもきれいですね。とってもきれいという以外に感想がないのです。この人に共感もしないし、理解もできない。なんで泣いてんだっけ? と思ってしまう。
『あんぱん』実在のモデル人物に対して不遜すぎる
言いたいことはわかります。東京に行った嵩(北村匠海)が変わってしまって、のぶちゃんはハチキンだし気が強い女の子なので、ついつい言い過ぎてしまった。電話で一度言いすぎて、一度は海とギターという情緒的なシチュエーションのおかげもあって仲直りしたけど、今の自分の考え方を否定されてまた言い過ぎてしまった。
「しゃんしゃん東京へいね」なんてひどいことを言ってしまったから、嵩は汽車を一本早めて、黙って東京へ帰ってしまった。
悲しいけれど、寛先生は「今は平行線でもいつか交わる」と言ってくれた。のぶと嵩は「ぶつかり合うて、一緒に涙を分けてきた」のだからと。
えーっとね。いつのどれなのだ。一緒に涙を分け合ったのはどのエピソードなのだ。
思い出すのは、結太郎パパ(加瀬亮)が死んでも泣けなかったのぶちゃんに、嵩が絵を描いてあげたシーン。それと、嵩が高知でママ(松嶋菜々子)に「親戚の子」と呼ばれて帰ってきて、座り込んだ畦道でのぶにあんぱんをもらったシーン。
そのどちらも片方が片方の心の再生に寄与しているという美しいシーンではありましたが、「涙を分けた」というニュアンスではないんですよね。シンプルに画面として「2人で泣いてた」わけじゃないし、畦道のシーンでは嵩はのぶたちを置き去りにして颯爽と町に帰っていきましたから、あのときの嵩を奮い立たせたのはのぶではなくヤム(阿部サダヲ)のあんぱんだったという印象のほうが強い。仮にあの場にのぶがいなくて、行商に出たのぶママ(江口のりこ)に発見されてあんぱんを与えられたとしても、きっと嵩は立ち上がっていたはずです。