ところで、62歳から受け取っている年金が、なぜ「少し」なのでしょう。65歳前に受け取るのは繰上げ受給が考えられますが、繰上げにより減額されても、長年働いているお母さまの年金額が「少し」とは考えにくいでしょう。
 
実は、お母さまが受給しているのは「特別支給の老齢厚生年金」です。昭和60年の法改正により、年金受給開始年齢が65歳に引き上げられましたが、引き上げが円滑に行われるよう段階的に設けられた制度です。
 
対象となるのは、昭和36年4月1日以前に生まれた男性と、昭和41年4月1日以前に生まれた女性で、図表2のように、65歳より前に定められた時期より定められた公的年金を受け取ることができます。
 
図表2

 
Aさんのお母さまは、昭和35年6月生まれで、62歳から報酬比例分を受給できます。報酬比例部分であるため「少し」なのです。
 
そして、その年金額は月に約4万5000円、年間48万円ほど<60万円であるため、雑所得が0となり、確定申告が不要です。65歳以降、老齢基礎年金を月6万8000円(令和6年度)も受け取り、仕事も続ける場合は、確定申告が必要になってきます。
 
報酬比例部分の年金を受け取っている間は確定申告が不要と分かって、Aさんは安心しました。しかし、新たな疑問が……。特にお金に困っていない場合は繰下げ受給をして受け取り年金額を増やすことを考えるのですが、なぜお母さまは「少し」の金額を受け取っているのでしょうか。
 
特別支給の老齢厚生年金には、「繰下げ制度」がないからです。特別支給の老齢厚生年金は、受給の手続きをしないまま権利が発生したときから5年を過ぎたら時効により消滅してしまいます。
 
また、在職中に受け取る場合、その年金月額と総報酬月額相当額の合計が50万円(令和6年度)を超えると、年金が支給停止される在職老齢年金制度がありますが、今のお母さまの給与収入は月13万円、年金との合計が月17万円ほどなので、停止はされないでしょう。
 
※令和7年1月現在の法律によります。改正によって変更になることにご注意ください。
 

出典