――日比野さんはそれだけやりたいこと、なりたいものが多かったということですか。
日比野:そうですね、小説家以外で「なんにでもなれるよ」と言われたら、バンドマンや芸人や、ライブのときに観客と同時性を持つことができる職業をやってみたい。小説は、文章を書いてから、読者に読んでもらうまでに時間的なズレ、タイムラグがある。私はずっと「小説に、読者との同時性を取り入れたい」と考えているんですけど、それは、ステージの上でそれを体現している人たちへの羨望があるからかもしれません。
『ビューティフルからビューティフルへ』では、「ここは息を止めて読んでほしい」という一節を入れて、同時性をもたせるという試みをしました。言葉を分裂させて、言葉遊びをすることで、読者と同じスピード感が出せるんじゃないかな、と。
――日比野さんに関するこれまでのさまざまなインタビューでは、音楽、映画などカルチャーに関する内容が多いですよね。確かに『ビューティフルからビューティフルへ』に引用されているカルチャーや固有名詞は、日比野さんを表す上で大事な物事です。でも、それらはあくまで要素であって、日比野さんの人間的な部分も伺いたくて。
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