おおたわ:たとえば、薬物を始めるきっかけも、男性に勧められて、という人が多いようです。あまり知識もないし、わかっていなくて使い始めてしまって、という感じで。そうこうしているうちに薬物依存になって、薬を買うお金が必要になると、売春したり、性的な犯罪に手を染めてしまう。

なかには、お金を作るために体を売ることが別に悪いことでも嫌なことでもなくて、大したことじゃない……くらいの感覚の人もいます。性感染症にかかっている女性受刑者もすごく多いです。

おおたわ史絵さん
◆「なんのために生きているのかわからない」

――男女にかかわらず、犯罪に流されてしまう要因は、何かあるのでしょうか。

おおたわ:どんな環境に生まれて育ってきたかは、大きく影響します。親がいなかったり、貧困家庭で育ったり、虐待されていたり、精神疾患や知的障害を持っていたり、何らかの事情がある受刑者がほとんどです。

『プリズン・ドクター』の本にも書きましたが、傷害罪で少年院に入っていたある17歳の少女は、両親の顔を知らないんですね。母親が風俗産業で働いていて父親が誰だかわからず、赤ちゃんの頃に母親も自殺してしまった。中学校はほとんど登校していなくて、周りに信用できる大人が誰もいない。彼女は「なんのために生きているのかわからない」と言っていました。

そういう環境で育つと、そもそも自分のアイデンティティや、「善悪」の感覚が育つチャンスがないわけです。誰かを喜ばせたい、認められたいから頑張る……というところから人の心は育つものですが、その「喜ばせたい誰か」がいないのです。

何のために頑張るかわからない、善の行いが何なのかもわからないとなると、生きていくために物を盗ったり、悪い人の口車に乗って犯罪の片棒を担いだりしてしまう。

善悪の判断が育ちにくい環境にたまたま生まれ落ちてしまうと、どんな人でも犯罪への道を歩む可能性はあると思います。