退職金も貯金もないまま老後を迎えるとどうなってしまうか、不安も覚える方もいるのではないでしょうか。Aさんも、50代で今の仕事の終わりが見えてきてから急に、老後の生活について危機感を持ち始めた1人です。
気付いたときには老後貧乏まっしぐら!?
53歳のAさんは最近、周りの友人たちが定年退職後の話をしているのを聞いて、焦りを感じ始めました。みんな「退職金で住宅ローンを完済する」とか「今まで頑張ってきたご褒美と思って、しばらく休息して贅沢する」といった話をしていますが、Aさんは日々の仕事で精一杯で、まだ退職後の具体的なプランはありません。
しかも、Aさんの会社には退職金制度がなく、だからといって充分な貯金ができているわけでもないため、お金の不安がつきまといます。ずっと独身なので、夫の収入に頼ることも子どもの支えを期待することもできません。
「退職金も貯金もないし、年金も期待できないし、友人たちのように余裕のある老後を送れないかもしれない……。1人で貧しい生活なんて嫌……」
10年前のAさんは「老後はまだ先、身軽だから頑張ればすぐ貯金できる」と思っていました。でも、なかなかそううまくはいきません。先の見通しが甘く、自由にお金を使える奔放な生活がやめられず、過去に貯金を怠った自分をつい責めてしまいます。
50代でも貯金できていない人は多い
金融広報中央委員会が2019年に実施した「家計の金融行動に関する世論調査」によると、50代の単身世帯の4割近くが「金融資産をまったく持っていない」と答えています。ここでいう「金融資産」とは、普段の生活や引き落としのために置いているお金以外のことで、運用や将来の備えにあてるために保有している預貯金や株式、貯蓄型の保険などを指します。
同じ50代でも、2人以上の世帯では「金融資産ゼロ」は2割程度です。50代の単身世帯の金融資産保有額(中央値)は54万円、2人以上世帯は600万円と、こちらも大きな差がついています。
単身の方は、子ども関連の出費がなく、支出を抑えやすい傾向があります。でも、それが原因で子育て世帯に比べて危機感を持ちにくくなり、貯蓄できないまま老後を迎える方も多いです。
老後貧乏にならないための対策
老後、お金に困る事態にならないようにするには次のような行動が有効です。
早くから将来をシミュレーションしておく
Aさんは老後に思いを馳せる機会が少なく、自分の会社に退職金制度がないことに気が付いたのも40代になってからでした。
想定が変わっても構わないので、一度早い段階で「老後の理想の暮らし」と「それにかかる費用」「もらえるお金」を具体的に考えてみるのがおすすめです。
特に「もらえるお金」は、退職金や年金など老後の暮らしを支える重要な項目ですが、自分がいくらくらいもらえるのか全く知らないという方も多いので要確認です。
貯金が苦手なら「貯まるしくみ」を作っておく
なかなか節約ができないという方は、自動的に「貯まるしくみ」を自分で作っておきましょう。貯金専用口座を作って、毎月の給与から自動的に一定額を振り込む設定にしておくのも一つですし、会社の財形貯蓄制度を利用するのもいいでしょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISA、自営業なら小規模企業共済など、自分で自分の退職金や年金を作れる制度も複数あります。
生活水準を必要以上に上げすぎない
ある程度の収入がある方や独身で子育て費用がかからない方の中には、生活水準を上げすぎたせいで老後資金の準備ができなかったり、老後の毎月の生活費が年金や貯金で暮らしていける範囲をかなりオーバーしたりしてしまう方もいます。
生活水準を上げるのは簡単にできますが、下げるのは多くの場合苦痛を伴います。老後になかなか生活コストを下げられず、現役時代の高い収入があるときの感覚で暮らしてしまい、多額の退職金や貯金があっても早々に使い切って困ってしまう人も少なくありません。
収入に余裕があると贅沢したくなってしまいますが、先を見越して計画的にお金を使うようにしましょう。
老後の準備は早い方がいい!
「老後に向けて準備を」と聞いても、「まだ先のことだし実感もない」とどんどん先延ばしにしてしまう方もいるでしょう。でも、寸前で焦って後悔するのはつらいことです。遅くとも50代になるころには、老後はどんな生活を送りたいか、できるだけ具体的にイメージして対策しておきたいですね。
文・馬場愛梨(ばばえりFP事務所代表)
自身が過去に「貧困女子」状態でつらい思いをしたことから、お金について猛勉強!銀行・保険・不動産などお金にまつわる業界での勤務を経て、独立。むずかしいと思われて避けられがち、でも大切なお金の話を、ゆるくほぐしてお伝えする仕事をしています。AFP資格保有。