茅葺屋根の家々が並び、古びた水車があり、清流が流れ囲炉裏の香りが鼻をくすぐる山間の集落。ここは、今もなお日本の原風景が色濃く残る場所。ほんの少し足を伸ばせば、映画の舞台にもなった大きな銀杏が天を仰ぐ小さな廃校もあります。
【1】ひっそりと佇む前沢曲家(まえさわまがりや)集落
2011年(平成23年)に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された集落には、伝統的家屋が20棟も残されています。横田(現在の金山町)城主・山内氏勝の家臣が移り住んだことから始まった集落で、住宅の多くは、曲家(上から見るとL字型に曲がった住まい)が特徴的です。
手前の突き出した部分は、農耕や運搬に欠かせない牛や馬の居場所となっており、人と同じ空間に生活していたことからも、大切にしてきた様子がうかがわれます。
1907年(明治40年)に、この集落がほぼ全戸消失するという大火に見舞われましたが、周辺地域の同じ大工集団によって各戸を建築したことから、統一的な景観が生まれました。集落を散策すると、水場で野菜を洗うお母さんなどと話ができて、今も変わらず昔ながらの生活を続けている様子が垣間見られます。
2013年に放送されたテレビドラマ『リーガルハイ2』の第8話のロケ地が前沢曲家集落でした。集落を訪れる前にドラマを見てからお出かけすると楽しいですよ。
【2】曲家を知る「曲家資料館」
南会津町伊南地区から移築された曲家を公開施設として活用しています。大黒柱や梁の大きさ、囲炉裏を囲んだ内部の空間など、豪雪地であるこの地域で百年来の風雪に耐えてきた暮らしの知恵を知ることができます。厩の様子や民具なども展示されており、当時の暮らしの様子などをガイドさん(夏期のみ)から聞くことができます。
【3】日本の原風景そのままに「前沢ふるさと公園」
国道352号線と前沢集落の間には、清流が清々しい館岩川が流れています。そしてこの周辺が前沢ふるさと公園と呼ばれています。養蚕が盛んだったころの面影を残す桑の木が残され、水車や、バッタリ小屋があります。
バッタリとは、ししおどしのように水を貯め、満水になったときの反動で杵をうごかし、粟やヒエなどをつく器具で、その音から呼ばれるようになったようです。
今ではほとんど聞く機会がない山里の音は、ある意味新鮮に感じることでしょう。周辺の景色と、集落に響く音が郷愁を呼び起こすと「うつくしまの音三十選」にも指定されています。