※こちらの記事は2014年11月に公開された記事を再編集したものです。

スマートフォンを通じて誰でも個人間で売買ができるアプリ「mercari」(メルカリ)を展開する株式会社メルカリ(以下メルカリ社)は、フォト蔵や映画生活を生み出し、ソーシャルゲーム大手の米Zyngaが買収したことで話題となった株式会社ウノウを立ち上げてきた山田進太郎氏が、2013年に設立したスタートアップです。

山田氏は、ずっと世界で通用するサービスの実現を目指してきたと話し、メルカリ社もそれを実現するために考え、準備し、起業したとしています。 そのメルカリ社がインフラとして選択したのが、さくらインターネットのサービスです。

さくらインターネットを起業した代表取締役社長 田中邦裕氏も、日本のデータセンターからグローバルにサービスを展開するという構想を持ちつつ、レンタルサーバからVPS、クラウドなどへと事業を進めてきました。 山田氏と田中氏のお二人に、今何を考えて事業展開をしているのか、サービスの差別化要因となるものとはなにか、そして今後の展開などについて聞きました。聞き手はPublickey新野淳一です。

いかに根本的なアイデアをうまく実現するかがキー

新野: まずは山田さんに、メルカリ社をどのような思いで立ち上げたのかをお伺いしたいと思います。

山田: いまやっているモバイル向けフリマアプリの「メルカリ」は、前回のウノウでは世界で通用するサービスの実現というところまでいかなかったという思いがあって、どうやったら世界で通用するサービスができるのか、そのことをずいぶん考えて、そのための仲間も集めて、会社を作って始めたサービスなんです。

サービスの中身を考えるときには、アメリカで流行しているものを日本に持ってくるのではなくて、日本で芽が出ているものを海外に持って行けるんじゃないか、そういうアイデアを見つけていきたいなと思い、それが今のフリマアプリの形になりましたね。

メルカリをリリースしたときには、ウノウでやっていたゲームとは全然違ったのものだったので割と驚かれたんですけれど、僕の中ではとにかく世界中の人に広く使ってもらえるものを作りたいと思っていて、その点では一貫していると思っています。

田中: さくらインターネットでは、サービスのアイデアとしてはすでに他の会社がやっていたものが多いんですね。VPS(仮想プライベートサーバ)を始めたときには、すでに他社がVPSをやっていましたし、クラウドもそう、格安レンタルサーバもそうでした。けれども自分たちがやったらもっとよくできるんじゃないか、そういう思いをベースにすることが多いですね。

正直、アイデアを思いつくのはたくさんの人が思いついていると思うんです。でも実際にそれを形にして、消費者に受け入れられるところまで持って行くことができる人って本当に少ない。

山田: その通りだと思います。Googleにしても最初の検索エンジンではないですし、Facebookも最初のソーシャルネットワークではない。いかに根本的なアイデアみたいなものをうまく実現するか、そこがいちばんキーになるところかなと思います。

田中: そうですよね。

インターネットの時代はプロダクトの優劣が見えやすい

山田: 僕はやっぱりプロダクトが非常に重要だと思っていて、ユーザーがサービスを使うときに、スマートフォンの画面上でポチポチやっていくところ、その全体をどうユーザーエクスペリエンスとして作っていくかがすごく大事で。

いまはクラウドやさくらインターネットさんなんかがすごくインフラを安く提供してくれますけれど、ちゃんとサービスを作ろうとするとiOSのデベロッパー、Androidのデベロッパー、バックエンドのデベロッパーとかをきちんと集めてと、難易度は高まっているのかなと思います。

田中: プロダクトが大事だというのはまさにその通りだと思っていて、ものを買ってもらうためには、良いものを作ることとすごい営業をする、その掛け算だと思うんですけれども。

さくらインターネットは、プロダクトはいいけれども売り込みが苦手だと言われていて、それで営業体制やマーケティングをずいぶん刷新して頑張って売り上げを増やしていこうとしています。

ただマーケティングやセールスにリソースを使いすぎるとプロダクトが悪くなる、という例もありますから、そうならないように意識するのはすごく重要ですね。

山田: インターネットのビジネスだと、特にプロダクトは優劣が外から見えやすいんですよね。だからインターネットではプロダクトの重要性というのは以前よりずっと大きくなってると思うんです。

田中: それ、いい話ですね。プロダクト自体を良くしないと、見透かされてしまうと。

山田: 僕はそう思ってます。FacebookにしてもGoogleにしてもiPhoneやAndroidにしても、良いものはインターネットだと広がりやすいんです。まずプロダクトが良いというのがあって、それからそれをどうアピールしていくか、だと思っています。

だからうちもテレビCMをやっているので、マーケティングでプロダクトを成長させているんじゃないかと見られているかもしれませんが、やっぱりプロダクトをいかに良くしていくかを、いまでもいちばん重視してやっているし、ユーザーのリテンションやアクティビティなどの指標はつねに細かく見ていて、そこが落ちるようだったらマーケティングはいったんやめて、プロダクトの改善に集中すべきだろうと思っていますね。

田中: 素晴らしいですね。そこ、本質ですからね。今おっしゃったように、CMやってる会社って浮いて見えるじゃないですか。でもやっぱりプロダクトのほうが大事だっていうメッセージを社内に発信し続けるって、すごく重要だと思いますよね。

社長として、どうプロダクトに関わっていくか?

新野: スタートアップでも、人数が少ないときは社長がプロダクトに関わりやすいのですが、会社の規模が大きくなると社長がプロダクトに直接関わるのはだんだん難しくなるように思います。お二人はどのようにプロダクトと関わっているのでしょうか。

山田: 僕はチケット(注:社内のタスクを「チケット」として管理するシステムのこと)は全部目を通してるんで、何かちょっと変な方向にいきそうになったら、あれはどうなの? っていう感じで直接その人に確認したりもするし、直接チケットに書くってこともあります。

それから役員とかマネージャー層にはかなりずっと、ずっとといっても会社の歴史が短いわけですが、一緒にやってきて、大体こういうのは良くないんだなとか、価値観みたいなものを企業風土として醸成してこれていると思います。

新野: チケットを全部見てるってすごいですよね。

山田: 結構大変なんですけどね。1日、多分400~500通位来るんで。米国オフィスもありますし、いわゆる人事とか経理とかそういうコーポレート系のやつも全部チケットで管理してるので。

田中: すごいですね。

山田: それを見れば、何がどうなっているのかっていうのは、相当分かるんですよ。僕はどちらかというと本当にプロダクトとか、PRとか表に出る数字とか、インタビューみたいなものとか、割と一応目を通して、どうしても気になる部分は自分で直したりとかします。プロダクトとか会社とかの見え方とか、そういうのをある程度コントロールしてるって感じですね。

会社の銀行の口座残高とか、任せられるとこは全部任せて、自分は本当にプロダクトや会社の見せ方、そしてリクルーティングが相当重要だと思ってるんで、そういうところに特化してやってるって感じですね。

新野: 田中さんはいかがですか。

田中: 私自身は、社風の維持に対してそんなに気を払ってこなかったんですけど、その分自分でサービスに関わるというかたちを続けてきたんですね。なのでサービスがおかしくなる前にいちいち口を出していたって感じなんです。

けれどもさすがに会社の売り上げが100億を超えるとそういうことができなくなって、いわゆる100億の壁ってよくいわれますけれども、超えたあたりでちょっとつらいなと。なので、サービスごとに、例えばクラウド、VPS、専用サーバなどはうちの副社長に全部任せてですね、今は基本そんなに見ていないんです。

何か気がついて言うときも、うちのコーポレートビジョンと照らし合わせて、価値観のほうから言うようにしていますね。 ただ、例えばさくらのレンタルサーバは、もうあまり変化が無い状態になってるんですね、それに関しては私が責任者として返り咲くと。特定の分野に関しては深くコミットしてイノベーションをしていこうとしています。

新野: 今、社長の田中さんがレンタルサーバの責任者なんですね。

田中: そうですね。7月からやってますね。

山田: 良いですね。元祖ですよね。僕も99年位からずっと使ってます。

田中: ありがとうございます。

実は、社名と事業内容が18年間も変わらないIT企業ってあまりないんですよね。いまだに当社はサーバー屋ですから、社内の人間がみんなサーバー屋としての魂みたいなものが染み付いてるんですね。

でも私はWebサービスのほうも好きなんですね。インフラやサーバーは手段なんですね。手段にこだわる思いもあるので当然そこにはすごくコミットするんですけれど、やっぱり一番重要なのはサービスの部分です。

そこは私自身が引っ張っていって、これから人材を作っていかないとと思っています。ここ5年位はずっとインフラのほうに私の時間をコミットしてきたので、そろそろそこのあたりを他の人に任せて、上のレイヤをしっかりやっていきたいと考えています。

先行者利益を享受するためにデータ分析を

山田: 最近、データ分析系のサービスがたくさん登場してますよね。いまうちでもアプリの使われ方をトラッキングできたりA/Bテストできるようなツールを検討しているんですけれど、この分野は需要がすごくあって、でも技術力が必要だから誰でも作れるわけじゃないみたいなところがあって、すごく注目していますね。

田中: 私も実はその分野に興味を持ってまして。スタートアップでそういうことに取り組んでいる人はたくさんいるんです。だから弊社にそういう人を連れてきて社内で取り組むというのも1つの手なんですが、もう1つの方法として、スタートアップはログの解析はできても何テラバイトとか何ペタバイトになるログを蓄積できるインフラは持っていませんから、弊社でそういう蓄積サービスをやる。

パートナーがそれを解析するというエコシステムを作るというのはあり得るかなと思っています。最近、弊社が一部出資したABEJAさんなんかは、ビデオカメラの映像を解析してヒートマップを作るんです。で、この辺に集まった人は年配の女性とか、年齢や性別まで解析してるんですよね。ただ、解析する技術は持ってるんですけども、そのためのインフラは持っていない。だったらうちが出資してインフラ面はサポートしましょう、ということを最近始めてますね。

山田: それはいいですね。僕らの場合、色々あるツールの中で何を使うか、いま検討段階です。

田中: 今ってですね、後発優位性があると思うんですよ。ある分野で先行したアプリが機能を増やしていった結果、あとから出てきたシンプルなアプリに人気を持って行かれることって、あると思うんですね。

だから先行者のほうが損をすることも多いんですけども、ユーザーの動向に基づいたアプリの最適化って、完全に先行者利益じゃないですか。 だからやっぱり先行者利益を享受するためには、データ分析に神経を払う必要があるかなと思いますね。

山田: 分かります。うちもだから、色んな改良をしているんですけども、それがどれ位インパクトがあったのかっていうのを丁寧に測る仕組みをいかに作るかみたいな、そういうフェーズに入ってきてる感じですね。

実際にやってるのはユーザーをランダムに割り振って、あるユーザーにはちょっとこういう画面を見せる、別のユーザーにはそれとは違う画面を見せるとか、そういうのをちょっとずつやり始めてるんです。

田中: そうなんですか。すごいですね!