三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE(以下、三代目JSB)のパフォーマーである岩田剛典が、ソロ活動1stフルアルバムとして『The Chocolate Box』を2022年10月12日リリースする。同アルバム収録の先行シングル「Ready?」が、8月26日0時からデジタルリリースされ、YouTubeではミュージックビデオが公開された。

 リリース前夜、30分前からカウントダウンを祝うライブ配信が行われ、ちょっとしたハプニングがありつつ、ファンとの間に和やかな時間が流れた。

「イケメンとLDH」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、配信の模様を伝えながら、アーティスト岩田剛典が袋詰めされたかのように三拍子揃った新譜「Ready?」を解説する。

◆インスタライブでのハプニング?

 カウントダウンのライブ配信は、日付が変わる30分前の23時30分からインスタライブ、23時40分からプラットフォームをYouTubeに移して行なわれた。筆者はどちらも視聴したが、インスタライブは配信者との距離が近く、まるで目の前に岩ちゃんがいるかのような錯覚を覚えた。ところが、このライブ、ちょっとした不具合というか、ハプニングが面白かった。

 というのも、自身のアカウントとソロプロジェクト「Be My guest」のアカウントとの合同配信で両画面に岩ちゃんが写る分割画面だったためか、配信者である岩ちゃんの声がハウったのである。視聴者のコメントで気づいた岩ちゃん、すかさず片方をミュートにしたが、改善されない。何度も試すが、ハウり続ける。「まいっか」という解決方法を見出して、ハプニングを和やかにしてしまうあたり、岩ちゃんらしい配信だった。

◆新譜の鮮やかな音像を予告

 それにしてもこのハウり、意外にアートワークとしても効果的だったのではないか。音の世界では不具合とされる「ハウリング」だが、英語では「遠吠え」を意味する。

 アメリカのブルース界を代表する巨人ハウリン・ウルフのアーティスト名の由来にもなっている。この増幅した集音音声はときに音楽的でもある。岩ちゃんのライブ配信の場合、それは不快なノイズではなく、直後に解禁される新譜の鮮やかな音像を予告していたように思う。

 YouTubeライブ配信が、日付をまたぐカウントダウン前に終了し、同チャンネル内で解禁される「Ready?」の視聴を待機するリスナーはすでに1万人近くいた。筆者もそのひとりに加わり、静かに心の中でカウントダウン。すると画面上にはポップなキャプションのカウントが。これには思わずドキドキさせられた。

◆密やかなドライブへ

 そして解禁されたイントロ。なんだこの疾走感。配信で岩ちゃんが、トラックを作っているときにドライブ感を意識したと言っていたが、その言葉と製作意図通り、リスナーは一台の車に乗車して密やかなドライブへ誘われる。

「スピード上がってく 駆け抜ける So feel it. Let’s together  止まれないよ」

 1番のBメロで歌詞がリスナーの体験そのものを語りながら、サビへ駆け抜ける。イントロに続き「Ready」という岩ちゃんの囁き(リフレイン)があり、「このまま Day and Night」。このドライブ、場所を問わないばかりか、昼でも夜でもこの上ないドライブ感を演出する。岩ちゃんがトラック作りと歌詞に込めたように、リスナーももう、止まれないよ。

◆三拍子揃ったダンスチューン

 しかもただリスナーの身体が楽曲のグルーヴ感で動くダンサー(ダンス曲)ではない。そもそもEXILEや三代目JSBのパフォーマーである岩ちゃんが歌い手でありながら誰より踊る。ミュージック・ビデオでは、イントロ直後の「Ready」の掛け声に合わせて、岩ちゃんが4人のダンサーを従えている。夕闇の空に向けてしなやかな腕をかかげ、指先にまで神経がはりめぐらされた一コマは、パフォーマーとしての極地だろう。カメラのローアングルも絶妙。

 サビはもっとすごい。彼らが踊る室内のレースカーテンが揺らめき、画面内に音の風が呼び込まれ、パフォーマンスがスタート。「Day and Night」の時間性を表現する振り子のような手首の動き。自分が踊るために考えられたこの振りはドープ(ヤバい)! 

 そしてアウトロでは、夕日に照らされながらのキメ顔。ここには俳優として培ってきた揺るぎない表現力が認められる。1stシングル「korekara」のミュージック・ビデオでも画面サイズを意識した動き方に役者らしさを感じたが、「Ready?」は、パフォーマー、シンガー、アクターの三拍子が揃ったダンスチューンとなった。

◆アーティストとしての岩ちゃんが思い描く音像

 岩ちゃんがソロで歌唱を披露したのは、味の素AFGのCM『「ブレンディ」スティック 朝オーレ!』篇だった。それが2018年10月のこと。この年の1月に公開された短編映画『SWAN SONG』では、作詞家・小竹正人の歌詞世界を映像化する「CINEMA FIGHTERS」内の一篇として、氷河期が到来した世界で主人公・アサヒを演じた。

 レコード会社との契約寸前だったアサヒは、映画冒頭からギターを手に温かみのある演奏で氷の世界を一時でも溶解した。映像作品として確認できる限りでは、今となっては今作が岩ちゃんのアーティスト・デビューの芽吹きを記録した作品だと解釈できる。

 そんな回想を交えながら「Ready?」を聴くと、ここにはひとりのアーティストの明確な意図と表現性を感じずにはいられない。ゆったりとチルな雰囲気だった「korekara」からは大きくダンサブルに旋回した感があるけれど、そこに感じるのはチルからメロウ(円熟)に格上げした品格である。岩ちゃんが思い描く音像はこの先、よりメロウに洗練されていくのだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。

ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu